戦場帰りの聖女は「穢れた」と断罪され追放されたけれど、獣人の王に拾われて契約結婚したら溺愛されました~追放した王国が滅びかけて土下座してきましたが私はもう戻りません~
第37話 魔道具の鎖
男たちが倒れ、石畳に微かに返り血が滲む。
人々の喧騒はすぐ近くにあるというのに、この路地裏だけはまるで時間が止まったように静かだった。
セラフィーナはわずかに乱れた息を整えながら、最後の一人――奥に立つ黒衣の男を睨みつける。
「……もうやめろこれ以上、無駄な血を流す気はないぞ」
その声は静かで、けれど剣より鋭く澄んでいた。
だが、黒衣の男はまるで痛痒を感じた様子もなく口元に笑みを浮かべる。
「なるほど……戦場帰りの聖女の名は、伊達ではないな」
男はゆっくりと懐に手を差し入れ、金属の鎖が巻きついた球状の魔道具を取り出す。
「だが、戦いはここまでだ」
その瞬間、空気が変わった。
男が足元に魔道具を放ると、光が弾け、周囲の景色が微かに歪む。
同時に、セラフィーナの身体にズン、と重たい感覚が襲いかかった。
「っ……なに……?」
足が動かない。
魔力の流れが、皮膚の内側で歪み、まとまらない。
「――空間認識遮断と、魔力封じの複合結界……君ほどの術者を連れ去るにはこれくらいの用意は必要だろう?」
黒衣の男が近づいてくる――セラフィーナは身体を動かそうとするが、何かに縛られるように膝が折れ、その場に片手をついた。
「う……く……!」
「このまま静かに従ってくれれば、傷つけるつもりはない。お前にはもっと相応しい場所があるはずだ」
男は懐から、古びた銀の腕輪を取り出す。
それは細かなルーンが刻まれた封印術に用いる古代式の拘束具だった。
「やめろ──それに触れるな!」
叫んだ瞬間には、もう遅かった。
カチャリ、と乾いた音を立てて、腕輪がセラフィーナの右手首に嵌まる。
次の瞬間、全身の魔力が一気に凍りついたように流れを止めた。
まるで、息すら魔法の一部だったかのように、呼吸すら重たくなる。
「……ああ、やはりお前は特別だ……触れただけで、この手が震える」
男は呟きながら、その肩を貸すようにしてセラフィーナを引きずる。
幻術の結界により、通りを歩く人々の目は彼女に向かう事はない。
まるでそこに存在していないかのように。
「セラフィーナ・ミレティス。君ほどの力を持つ者が、フェルグレイなどという辺境国家で飼い殺しにされるとは……王都の者として、哀れで仕方がないよ」
その声は、まるで同情するかのような甘さを帯びていた。
「『王都に戻れば』、お前は再び『聖女』として……いや、それ以上の象徴となれる。小さな国の王妃として終わるより、もっと大きな舞台があるのだよ」
セラフィーナの意識が、じわじわと霞んでいく。
魔道具による拘束と、幻術の副作用。
抵抗しようとすればするほど、頭の中が重たくなる。
(ふざ、けるな……私は……陛下に、言った、はずなのに……)
「っ……私は……ここで、生きると……っ!」
それが限界だった――足元が崩れ、視界が傾く。
黒衣の男が、彼女の身体を抱え上げそのまま路地の奥の細道へと姿を消していった。
騒がしい市の喧騒の中、誰一人、その瞬間を目にすることはなかった。
人々の喧騒はすぐ近くにあるというのに、この路地裏だけはまるで時間が止まったように静かだった。
セラフィーナはわずかに乱れた息を整えながら、最後の一人――奥に立つ黒衣の男を睨みつける。
「……もうやめろこれ以上、無駄な血を流す気はないぞ」
その声は静かで、けれど剣より鋭く澄んでいた。
だが、黒衣の男はまるで痛痒を感じた様子もなく口元に笑みを浮かべる。
「なるほど……戦場帰りの聖女の名は、伊達ではないな」
男はゆっくりと懐に手を差し入れ、金属の鎖が巻きついた球状の魔道具を取り出す。
「だが、戦いはここまでだ」
その瞬間、空気が変わった。
男が足元に魔道具を放ると、光が弾け、周囲の景色が微かに歪む。
同時に、セラフィーナの身体にズン、と重たい感覚が襲いかかった。
「っ……なに……?」
足が動かない。
魔力の流れが、皮膚の内側で歪み、まとまらない。
「――空間認識遮断と、魔力封じの複合結界……君ほどの術者を連れ去るにはこれくらいの用意は必要だろう?」
黒衣の男が近づいてくる――セラフィーナは身体を動かそうとするが、何かに縛られるように膝が折れ、その場に片手をついた。
「う……く……!」
「このまま静かに従ってくれれば、傷つけるつもりはない。お前にはもっと相応しい場所があるはずだ」
男は懐から、古びた銀の腕輪を取り出す。
それは細かなルーンが刻まれた封印術に用いる古代式の拘束具だった。
「やめろ──それに触れるな!」
叫んだ瞬間には、もう遅かった。
カチャリ、と乾いた音を立てて、腕輪がセラフィーナの右手首に嵌まる。
次の瞬間、全身の魔力が一気に凍りついたように流れを止めた。
まるで、息すら魔法の一部だったかのように、呼吸すら重たくなる。
「……ああ、やはりお前は特別だ……触れただけで、この手が震える」
男は呟きながら、その肩を貸すようにしてセラフィーナを引きずる。
幻術の結界により、通りを歩く人々の目は彼女に向かう事はない。
まるでそこに存在していないかのように。
「セラフィーナ・ミレティス。君ほどの力を持つ者が、フェルグレイなどという辺境国家で飼い殺しにされるとは……王都の者として、哀れで仕方がないよ」
その声は、まるで同情するかのような甘さを帯びていた。
「『王都に戻れば』、お前は再び『聖女』として……いや、それ以上の象徴となれる。小さな国の王妃として終わるより、もっと大きな舞台があるのだよ」
セラフィーナの意識が、じわじわと霞んでいく。
魔道具による拘束と、幻術の副作用。
抵抗しようとすればするほど、頭の中が重たくなる。
(ふざ、けるな……私は……陛下に、言った、はずなのに……)
「っ……私は……ここで、生きると……っ!」
それが限界だった――足元が崩れ、視界が傾く。
黒衣の男が、彼女の身体を抱え上げそのまま路地の奥の細道へと姿を消していった。
騒がしい市の喧騒の中、誰一人、その瞬間を目にすることはなかった。