戦場帰りの聖女は「穢れた」と断罪され追放されたけれど、獣人の王に拾われて契約結婚したら溺愛されました~追放した王国が滅びかけて土下座してきましたが私はもう戻りません~
第47話 救出後の夫婦の帰路
魔獣の咆哮も、火の粉も、怒号も、もう聞こえない。
夜が明ける頃、ライグの妻であるセラフィーナを救出した後、フェルグレイ軍と王都軍の混成部隊は、徐々に撤収を始めている。
その一角、ライグはセラフィーナの肩をそっと支えながら、愛馬に向かって歩いていた。
「……まだ、歩けるか?」
「……ええ。少し、ふらつくくらいで……」
そう言いながらも、セラの顔は青白く、足取りはおぼつかない。
無理もない。
拘束されていた上に、無理やり拘束具を何とか知恵と手の動きで解除したからなのか、疲労が溜まっていたのである。
ふらついている彼女の姿を見たライグは無言のまま、腰に腕を回すとそのままひょいと馬上に抱き上げた。
「わっ……!」
セラフィーナが軽く声をあげる。
「俺の馬に乗れ。寝てもいい」
「で、でも……っ、みんな見てます……!」
確かに、周囲の兵たち――とくにフェルグレイ騎士団の精鋭たちがちらちらとこちらを見ている。
だが、誰一人として不快な顔をしている者はいなかった。
皆、どこか安心したような、温かい表情で二人を見守っている。
「気にするな……お前が倒れた方が、俺のほうが困る」
「……それは、私も同じなんだが……あ、いえ、なのですが……ああ、もうっ……」
何かに葛藤するかのように、顔を真っ赤にしながらぶつぶつと呟いているセラフィーナを無視するかのように、馬がゆっくりと動き出す。
戦場を背に、彼らは帰路についた。
しばらく、森の中の静かな道を進んでいると、
セラがぽつりと呟いた。
「そういえば今思い出したんですけど……ジルヴァン王子が『妃にしたい』とか言い出しましてね……」
「……ぁ?」
突然そのように言い出したセラフィーナにライグの返事は、低くて重かった。
ぐっと手綱を引き締めた拍子に馬の耳がぴくりと動いた。
「へっ、陛下!? 顔が……!めちゃくちゃ怖いですっ!」
「この世の終わりみたいなこと言うな」
「そ、そんなにですか!?」
セラフィーナが少しだけ眉を下げて見上げると、ライグは無言のまま、彼女の腰に回した腕にぐっと力を込めた。
「……セラ」
「は、はい!」
「お前は俺の『妻』だろう?」
その声に、セラフィーナの耳がほんのりと赤くなる。
「……ぁ……」
しばらくの沈黙のあと、ライグがふと思いついたように言う。
「それに……なあ、セラ」
「はい?」
「俺のこと、そろそろ『ライグ』って呼んでくれてもいいんじゃないか?」
「ふぁっ!? えっ、えっ……?」
思わぬ提案に、セラフィーナの全身が硬直した。
「お前は……変わらず、毅然とした態度で『陛下』呼びなんだな」
隣で揺れる髪を見つめながら、ライグがぼそりと呟く。
「それに俺たち、夫婦だろう?……だったら、もう『陛下』じゃなくて、さ」
「そ、そうですけど……で、でもっ、陛下……っ」
「……ライグ、だ」
低く落ち着いた声。
けれど、どこかほんの少し甘えるような響きが混じっていた。
「うううぅぅっ……!!そ、そんな……急に言われても無理なものは無理です!」
セラは顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えながら手で顔を覆う。
「……なるほど。やっぱり、素直じゃないな……でも、可愛い」
「か、可愛いって……!」
「全てが落ち着いたらちゃんと『ライグ』って呼べるように……覚悟、決めとけよ?」
「えっ、えっ……そ、それって、どういう……!」
セラフィーナが慌てて彼の顔を見上げると、
ライグは静かに笑っていた。
戦場では決して見せなかった、優しく柔らかな笑み。
「……お前が言うまで、俺は待つさ。でも、待たせすぎたら……覚悟しておけ」
「~~~っ、いじわるっ……!」
口を尖らせながらも、セラの頬はどこまでもほんのりと紅く染まっていた。
▽
そのやり取りを、後方から控えめに距離を取って進む騎士たちが見守っていた。
「……仲睦まじいですな」
「まったくだ。陛下のあんな顔、戦場でも見たことなかったぞ」
「……平和って、こういうときに感じるものなんだな」
「……でも、俺たち、忘れられていないか?」
「もう、あそこだけ二人の世界だもんなぁ……陛下って、結構独占力激しいんだな」
「っていうか獣人ってそんな感じだろう」
「……俺、絶対陛下怒らせないようにしよう」
周りにそんな会話が出ていたなんて、二人は知らない。
夜が明ける頃、ライグの妻であるセラフィーナを救出した後、フェルグレイ軍と王都軍の混成部隊は、徐々に撤収を始めている。
その一角、ライグはセラフィーナの肩をそっと支えながら、愛馬に向かって歩いていた。
「……まだ、歩けるか?」
「……ええ。少し、ふらつくくらいで……」
そう言いながらも、セラの顔は青白く、足取りはおぼつかない。
無理もない。
拘束されていた上に、無理やり拘束具を何とか知恵と手の動きで解除したからなのか、疲労が溜まっていたのである。
ふらついている彼女の姿を見たライグは無言のまま、腰に腕を回すとそのままひょいと馬上に抱き上げた。
「わっ……!」
セラフィーナが軽く声をあげる。
「俺の馬に乗れ。寝てもいい」
「で、でも……っ、みんな見てます……!」
確かに、周囲の兵たち――とくにフェルグレイ騎士団の精鋭たちがちらちらとこちらを見ている。
だが、誰一人として不快な顔をしている者はいなかった。
皆、どこか安心したような、温かい表情で二人を見守っている。
「気にするな……お前が倒れた方が、俺のほうが困る」
「……それは、私も同じなんだが……あ、いえ、なのですが……ああ、もうっ……」
何かに葛藤するかのように、顔を真っ赤にしながらぶつぶつと呟いているセラフィーナを無視するかのように、馬がゆっくりと動き出す。
戦場を背に、彼らは帰路についた。
しばらく、森の中の静かな道を進んでいると、
セラがぽつりと呟いた。
「そういえば今思い出したんですけど……ジルヴァン王子が『妃にしたい』とか言い出しましてね……」
「……ぁ?」
突然そのように言い出したセラフィーナにライグの返事は、低くて重かった。
ぐっと手綱を引き締めた拍子に馬の耳がぴくりと動いた。
「へっ、陛下!? 顔が……!めちゃくちゃ怖いですっ!」
「この世の終わりみたいなこと言うな」
「そ、そんなにですか!?」
セラフィーナが少しだけ眉を下げて見上げると、ライグは無言のまま、彼女の腰に回した腕にぐっと力を込めた。
「……セラ」
「は、はい!」
「お前は俺の『妻』だろう?」
その声に、セラフィーナの耳がほんのりと赤くなる。
「……ぁ……」
しばらくの沈黙のあと、ライグがふと思いついたように言う。
「それに……なあ、セラ」
「はい?」
「俺のこと、そろそろ『ライグ』って呼んでくれてもいいんじゃないか?」
「ふぁっ!? えっ、えっ……?」
思わぬ提案に、セラフィーナの全身が硬直した。
「お前は……変わらず、毅然とした態度で『陛下』呼びなんだな」
隣で揺れる髪を見つめながら、ライグがぼそりと呟く。
「それに俺たち、夫婦だろう?……だったら、もう『陛下』じゃなくて、さ」
「そ、そうですけど……で、でもっ、陛下……っ」
「……ライグ、だ」
低く落ち着いた声。
けれど、どこかほんの少し甘えるような響きが混じっていた。
「うううぅぅっ……!!そ、そんな……急に言われても無理なものは無理です!」
セラは顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えながら手で顔を覆う。
「……なるほど。やっぱり、素直じゃないな……でも、可愛い」
「か、可愛いって……!」
「全てが落ち着いたらちゃんと『ライグ』って呼べるように……覚悟、決めとけよ?」
「えっ、えっ……そ、それって、どういう……!」
セラフィーナが慌てて彼の顔を見上げると、
ライグは静かに笑っていた。
戦場では決して見せなかった、優しく柔らかな笑み。
「……お前が言うまで、俺は待つさ。でも、待たせすぎたら……覚悟しておけ」
「~~~っ、いじわるっ……!」
口を尖らせながらも、セラの頬はどこまでもほんのりと紅く染まっていた。
▽
そのやり取りを、後方から控えめに距離を取って進む騎士たちが見守っていた。
「……仲睦まじいですな」
「まったくだ。陛下のあんな顔、戦場でも見たことなかったぞ」
「……平和って、こういうときに感じるものなんだな」
「……でも、俺たち、忘れられていないか?」
「もう、あそこだけ二人の世界だもんなぁ……陛下って、結構独占力激しいんだな」
「っていうか獣人ってそんな感じだろう」
「……俺、絶対陛下怒らせないようにしよう」
周りにそんな会話が出ていたなんて、二人は知らない。