育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

19.大きな成長!

差し込む朝日の光で目を覚ますと、いつの間にか朝になっていたようだ。

 看病疲れでうたた寝をしてしまったと、焦って眠気が吹っ飛ぶが、フィオの額には何も書かれておらず、気持ちよさそうにすやすや眠っていたのでほっとする。

「はあー……って、え!」

 ふと至近距離に、銀髪の青年の寝顔。
 隣の椅子に座り腕を組んだまま、息をしているのか不安になるほど静かに、アーサーさんが眠っている。

 フィオの看病をしながら寝落ちしてしまった私の肩に、体を冷やさないよう、アーサーさんの上着がかけられていた。

 彼の肩に寄りかかり、安心したのか私はすやすや眠っていたようだ。

(優しいな……上着もかけてくれて、私が寝ちゃった後、代わりにフィオを見てくれてたんだ)

 育児チートスキルを持っている私を起こせばいいものを、寝かせてくれていたのだろう。
 フィオの体を拭いたり肌着を替えてくれていた跡があり、心の中でアーサーさんに感謝をする。

 ようやく朝方眠れたのかもしれない。疲れたであろう彼を起こさないように、私はそっとベビーベッドに近づく。

 眠るフィオの顔色は良くなっていて、おでこに手を当てて体温を測ったら、平熱に戻っているようだった。

(よかったぁ……! 熱が下がったみたいね!)

 薬を飲ませ、温かくし、ゆっくり寝かせたのが良かったのかもしれない。ほっと安堵し、椅子の背もたれに体を預ける。

 今日もまだ辛そうだったら、抱っこして町まで連れて行き医者に見せようと思っていたし、それでも治らなければ、どうにか依頼主の皇帝に連絡を取ろうとしていたので、大事にならなくてよかった。

「ふぅぅ……あーわわ……」

 私の喜びの気持ちが伝わったのか、フィオが小さなお口であくびをしたと思ったら、ゆっくりと目を開けた。目を覚ましたようだ。

「おはよう、フィオ。元気になった?」
「ううー!」

 ベビーベッドに横たわるフィオは、一日ぶりに元気そうな笑顔を見せてくれた。

(はあ可愛い。我が子が体調不良で、心配するお母さんの気持ちがわかったわ)

 保育士として働いているときも、園児がお熱が出てしまったと職場に電話をし、迎えにきたお母様やお父様の不安や心配でいっぱいな表情をしていたのを、よく見ていた。

 血の繋がらない自分も、そんな母親の気持ちが分かった気がした。
 
すると、仰向けで寝ているフィオが両腕をグーンと伸ばし、小さな手を必死で握ったり開いたりしている。

「ん? フィオどうしたの?」

「んんー!」

 フィオは何やら唇を引き締め、必死に右腕を天に伸ばしたかと思うと、同じく右足を上げて上体を傾けた。

「ええ、まさか……!?」

 私が驚き、じっとその様子を見ていると、フィオは必死に右腕右足を動かしている。

「頑張れフィオ!」
「んー!」

 数分格闘し、顔を左に向けることで自重が移動したのか、その反動で右腕と右足が彼の左側へと回る。

 ごろん、と。

 フィオが渾身の力で、初めて寝返りを打った瞬間だった。

 今までずっと仰向けだったフィオが、うつ伏せになり、自分の腕の力で頭を上げた。

「すごいよフィオ、初めての寝返りだね!」
「ふふ!」

 私は嬉しくなって、両手で拍手をして全力で喜びを表現すると、その音に合わせてフィオもニコニコと無邪気に笑っていた。

 寝返り一つだが、素晴らしい成長だ。見逃すことなく間近で見ることができて、私は感激していた。
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