育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

21.良薬口に苦し

「なにからなにまで……本当にすみません……」

部屋を暖めるために暖炉を付けてくれたため、暖かい空気が漂っている。

寝室に移り、私はベッドに横になって申し訳なくなり謝罪した。

「体調不良は誰にでも起こる。環境の変化と育児で、君も疲れが溜まっていたんだろう」

椅子に座ったアーサーさんは、昨日の『魔力の暴走』騒動を収め、私が寝落ちした後フィオの面倒を見て、今は熱が移った私の看病もしてくれている。

手に果物ナイフと小ぶりなリンゴを持ち、器用に皮を剥き、食べやすいサイズに切り分けてくれた。

「お腹空いただろう。軽く果物を食べておけ」

「はい……」

私は頭がぼーっとしたまま、フォークに刺したリンゴを口に運ぶ。町の商店街の果物屋のお婆さんが言っていた通り、みずみずしくて美味しい。

しゃりしゃり、と咀嚼している間、アーサーさんはフィオの方を眺める。

寝返りを打てるようになると、ベビーベッドから落ちる危険があると伝えたら、床にふかふかの布団やクッションを置き、そこにフィオを寝かしてくれた。

フィオは果敢にも寝返りに挑戦しようとしたり、疲れて指をしゃぶってみたりと、彼なりに楽しく過ごしているようだった。

三切れほどリンゴを食べたところで、

「ほら、風邪薬も飲んでおけ」

昨晩フィオにも飲ませた、すりこぎで擦った薬草にお湯を混ぜた、この世界の風邪薬を渡されたので、私は恐る恐るスプーンで口に含む。

「うえぇ……恐ろしく苦い……」

良薬口に苦しとはいうけれど、苦くて飲み込むのも辛い。

(春菊とピーマンとパクチーを煮込んだような味だぁ……)

私の渋い顔を見て、

「フィオは我慢して飲んで熱が下がったんだから、君も頑張るんだ」

「はぁい」

0歳の子が飲めたのに、二十年以上年長者の私が拒否はできないと、無理やり飲み込む。

喉が焼けるような苦味が続くが、どうにか完飲する。

「よく飲めたな。ホットレモネードも作ったから、口直しに飲むといい」

飲み終わったタイミングで、アーサーさんがレモンを入れた温かいコップを渡してくれた。

 風邪を治すにはビタミンが効くというが、りんごにレモンとビタミンたっぷりで助かる。

「ふぅ……おいしい……お母さんみたい……」

熱が出てしまっと時に甲斐甲斐しく、消化にいいものを次々と出してくれる様子が、まるで自分のお母さんみたいだと嬉しくて思わず呟いてしまった。

(しまった、成人男性になってことを)

嫌がるかもしれないと焦ってアーサーさんの方を見るも、

「それは良かった」

しかしアーサーさんは嫌がるでも恥ずかしがるでもなく、小さく頷くだけだった。

「フィオも寝返りを打てたのなら、今後はミルクだけでなく少しずつ離乳食を始めてみるといいだろう。すりりんごが丁度いいかもな」

「あーう!」

布団の上に寝転び、ご機嫌なフィオを眺めながら、優しそうに話すアーサーさんの横顔を見ながら思う。

なんでこんなに子供の世話や看病に手慣れているのか。

離乳食の時期など、私でさえ保育の専門学校にいくまでは知らなかった。

 世のママさんたちも、子育てするようになって初めて勉強するものではないか。
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