育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
23.優しい人
「……ふふ、ははは!」
お腹を押さえて、心からおかしそうに笑い始めた。
「な、なにがおかしいんですか」
「ううー」
おそらく今三十八度以上の熱があるからだけではなく、恥ずかしさと、後に引けなさで、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
うつ伏せのフィオも、床からアーサーさんを見上げている。
「なるほど。そう勘違いしていたから、俺に対する態度が急によそよそしくなっていたのか?」
先日、何か買い出しに行こうかと聞いてきたアーサーさんに、毅然と冷たく接した私の態度を気にしていたようだ。
アーサーさんは、見事な寝返りを打ってうつ伏せになったフィオを両手で抱っこし、細身ながらも鍛えられているその胸元にそっと抱く。
「俺が既婚者か、離婚した子持ちだと思っていたのか。だが、他にも子守りに詳し理由なんていくらでもある。
俺に歳の離れた弟妹がいて、世話し慣れているのかもしれないだろ?」
「え、ああ……確かに」
フィオをあやしながら言う彼の言葉に、妙に納得してしまった。
10歳近く歳の離れた下の弟妹がいて、子供の世話に慣れている保育の専門学校時代の友人がいたのを思い出す。確かに、気が早かったかもしれない。
「ふふ、おかしな人だな、君は」
アーサーさんはおかしそうに、肩を震わせて笑っている。
「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないですかぁ……! 私は、本気で悩んでいたんですから」
「そうだな、真面目で誠実な女性だ」
既婚者の異性とあまり仲良くしすぎてはいけない、という発想の私を褒めてくれる。
しかしそれは、裏を返せば私が、優しくて気がきく隣人の彼に少なからず「好意」を抱いていることがバレバレではないか。
急に恥ずかしくなって、私はもそもそとベッドの中に潜り込もうとするが、彼がこんなに声を上げて笑うのを見るのは初めてなので、それに合わせて笑ってしまった。
ひとしきり笑ったところで、アーサーさんは低い声で語る。
「……俺も君と同じく、以前子供を預かって世話をしたことがある。
だから、育児がどれだけ大変なのか、そしてどれほど尊いのか、理解しているつもりだ」
腕の中のフィオの金髪を撫でているからか、彼の声はいつもより優しい。
「預かって……世話をしていた……?」
「ああ。君と同じく、血の繋がっていない赤の他人の子供を、仕事として預かっていたんだ」
目を細め、育児をしていた昔を思い出すように語る。
その穏やかな横顔は嘘をついているようには見えなくて、私は彼を信じることにした。
(この世界に保育士という職業はないと言っていたけど、近しいものはあるのかもしれない)
私が保育士だと言った時に怪訝そうな顔をしていたが、職業名が違うだけかもしれない。
「疑問は晴れたか?」
「はい、なんかすっきりしました……」
アーサーさんの問いかけに、私は胸を撫で下ろす。暖炉で温かくなった部屋の中で、なにを押し問答をしていたのかと自分でも情けなく思った。
「アーサーさんが独身で子供がいないからって、甘えていい理由にはならないのですが……」
ぶつぶつと申し訳なさそうに私が言うと、彼は水で濡らした布を絞り、私の額に置いてくれた。
「困った時はお互い様だから気にするな。熱を下げるには、寝るのが一番だ。
フィオは俺が見ているから心配するな」
「ええ……ありがとう、ございます」
結局、優しくて頼りになる隣人に甘えてしまい、申し訳ないと、目を瞑る。
(彼は、どんな子を育てていたんだろう……)
熱がある私の視界は瞼の裏でぐるぐるとまわり、すぐに夢の中へと落ちていくようだった。
眠りに落ちる瞬間、ふと、
「……これも、運命なのかもしれないな」
どこか寂しげな、アーサーさんの低い声。
フィオの髪を撫でる、寂しげな呟きが、私の鼓膜を揺らした。
お腹を押さえて、心からおかしそうに笑い始めた。
「な、なにがおかしいんですか」
「ううー」
おそらく今三十八度以上の熱があるからだけではなく、恥ずかしさと、後に引けなさで、私の顔は真っ赤になっていることだろう。
うつ伏せのフィオも、床からアーサーさんを見上げている。
「なるほど。そう勘違いしていたから、俺に対する態度が急によそよそしくなっていたのか?」
先日、何か買い出しに行こうかと聞いてきたアーサーさんに、毅然と冷たく接した私の態度を気にしていたようだ。
アーサーさんは、見事な寝返りを打ってうつ伏せになったフィオを両手で抱っこし、細身ながらも鍛えられているその胸元にそっと抱く。
「俺が既婚者か、離婚した子持ちだと思っていたのか。だが、他にも子守りに詳し理由なんていくらでもある。
俺に歳の離れた弟妹がいて、世話し慣れているのかもしれないだろ?」
「え、ああ……確かに」
フィオをあやしながら言う彼の言葉に、妙に納得してしまった。
10歳近く歳の離れた下の弟妹がいて、子供の世話に慣れている保育の専門学校時代の友人がいたのを思い出す。確かに、気が早かったかもしれない。
「ふふ、おかしな人だな、君は」
アーサーさんはおかしそうに、肩を震わせて笑っている。
「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないですかぁ……! 私は、本気で悩んでいたんですから」
「そうだな、真面目で誠実な女性だ」
既婚者の異性とあまり仲良くしすぎてはいけない、という発想の私を褒めてくれる。
しかしそれは、裏を返せば私が、優しくて気がきく隣人の彼に少なからず「好意」を抱いていることがバレバレではないか。
急に恥ずかしくなって、私はもそもそとベッドの中に潜り込もうとするが、彼がこんなに声を上げて笑うのを見るのは初めてなので、それに合わせて笑ってしまった。
ひとしきり笑ったところで、アーサーさんは低い声で語る。
「……俺も君と同じく、以前子供を預かって世話をしたことがある。
だから、育児がどれだけ大変なのか、そしてどれほど尊いのか、理解しているつもりだ」
腕の中のフィオの金髪を撫でているからか、彼の声はいつもより優しい。
「預かって……世話をしていた……?」
「ああ。君と同じく、血の繋がっていない赤の他人の子供を、仕事として預かっていたんだ」
目を細め、育児をしていた昔を思い出すように語る。
その穏やかな横顔は嘘をついているようには見えなくて、私は彼を信じることにした。
(この世界に保育士という職業はないと言っていたけど、近しいものはあるのかもしれない)
私が保育士だと言った時に怪訝そうな顔をしていたが、職業名が違うだけかもしれない。
「疑問は晴れたか?」
「はい、なんかすっきりしました……」
アーサーさんの問いかけに、私は胸を撫で下ろす。暖炉で温かくなった部屋の中で、なにを押し問答をしていたのかと自分でも情けなく思った。
「アーサーさんが独身で子供がいないからって、甘えていい理由にはならないのですが……」
ぶつぶつと申し訳なさそうに私が言うと、彼は水で濡らした布を絞り、私の額に置いてくれた。
「困った時はお互い様だから気にするな。熱を下げるには、寝るのが一番だ。
フィオは俺が見ているから心配するな」
「ええ……ありがとう、ございます」
結局、優しくて頼りになる隣人に甘えてしまい、申し訳ないと、目を瞑る。
(彼は、どんな子を育てていたんだろう……)
熱がある私の視界は瞼の裏でぐるぐるとまわり、すぐに夢の中へと落ちていくようだった。
眠りに落ちる瞬間、ふと、
「……これも、運命なのかもしれないな」
どこか寂しげな、アーサーさんの低い声。
フィオの髪を撫でる、寂しげな呟きが、私の鼓膜を揺らした。