育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

25.手紙の返事

屋敷に一枚の白い封筒が届いていたので何かと思ったら、差出人はセントレア大聖堂からだった。

 この世界に転生して初日、泣き叫ぶフィオを抱きしめた、ステンドグラスが綺麗な大聖堂を思い出す。
私は封筒を開けて、折り畳まれた便箋を手に取る。

『セントレア大聖堂の司教でございます。
『ある方』の代筆をし、この手紙を書いております。
その後、お変わりはないでしょうか。
 何か困ったことがあれば、お返事にてお伝えください』

几帳面で綺麗な字で、そう書かれていた。

泣き叫ぶフィオを一瞬で泣き止ませた私を見て、「あなたが神託の巫女だ」と言った、中年の司教様を思い出す。

(『ある方』、というのはきっと、私にフィオを預けたカルヴァン皇帝よね)

 馬車で大聖堂に訪れ、私にフィオを預けると伝えた、カルヴァン皇帝の姿を思い出す。

 王都で一番の権力を持つ皇帝が、身分を隠すため真っ黒なフードを被っていた。

 きっと、手紙の内容を他人に検閲されないよう、皇帝からではなく司教様を通し、具体的な名前を伏せているのだろう。

 随分手が込んでいる。

 私も返事を書こうと思い羽ペンを持つが、

(フィオの名前や、子供を預かっていることも書かないほうがいいのかな)

と思い立ち、

「お預かりしたものは無事です。
 先日、私がなにもしなくても半回転しました。
 少し部屋が荒れることもありましたが、順調です」

 と、『赤子が寝返りを打った』、『魔力が暴走したけど無事』というのを隠語で伝えようと思うと、変な文章になってしまった。

「ま、まあ分かるよねきっと!」

 賢そうな皇帝ならきっと文章の意味を読み取ってくれると、信じよう。

 文章の最後に、窓が割れてしまったのでガラスを修理して欲しいということと、街で買い物をするのに小銭の方が便利だから少し両替して欲しい旨を書き、封を閉じようとした。

 しかし、ふと思いつき、最後に一文追記する。

『優しい隣人の手助けもあり、毎日楽しくやっております』

 アーサーさんのおかげで、ドタバタしながらも笑顔を忘れずにいる。
 そして封を閉じ、明日街に買い出しに行った時にでも、手紙を出してこようと伸びをする。

「さあフィオ、オムツ替えようか」

「あーう!」

「【慈しみの抱擁】発動、≪全自動洗浄≫オン!」

 明るい光がフィオの体を包み込み、濡れてしまった肌着を、さっぱり綺麗にしてくれる。

 育児チートスキルを使って、この子を育てるという私の使命は、試行錯誤しながらもうまくやっていると、依頼主に伝わって欲しいなと思ったのだ。
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