育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
28.王宮騎士団長
本を閉じると、私の心臓は、ドクンドクンと激しく脈打っていた。
彼の中での心境の変化や、徐々に追い詰められていく緊迫した文章を読んで、動悸が止まらなかった。
(何か、とんでもないものを読んでしまった)
震える指で、本を閉じてテーブルに置こうとしたところで、
「ーーーエレナ」
「きゃあ!?」
背後から、男性の低い声で咎められた。
叫び声を上げ振り返ると、逆光の中、片手に二羽の鳥を持ったアーサーさんが、ぼんやりとこちらを見ていた。
その衝撃で私は日記を床へと落としてしまう。
彼の銀髪が、夕焼けに照らされオレンジ色に輝いているが、その顔には一切の表情がなかった。
「ほにゃあ、ほにゃあ!」
「ご、ごめんねフィオ」
私が素っ頓狂な声をあげてしまったため驚いたフィオが泣き出してしまった。
おんぶ紐からおろし、両腕で前抱っこをするとフィオはすぐに落ち着いたが、アーサーさんは私の横を通り抜け、納屋の中に足を踏み入れると、床に落ちた日記を拾っていた。
「……読んだのか」
氷点下の声。
勝手に人の日記を盗み読みしてしまった罪悪感が浮かぶ。
「ごめんなさい、ドアが空いて本が落ちていたので、拾おうと思ったんです……」
これではまるで空き巣や盗人だ。私は目に涙を浮かべながら、嫌われたくないと必死に謝る。
「……そうか」
年季の入った日記の背表紙をなぞり、アーサーさんは日記をテーブルの上に置く。
「いいんだ。いずれ伝えるつもりだった」
アーサーさんは、ふうとため息を付くと、観念したように目を細めた。
「納屋は寒いから、俺の家で話そう」
覚悟を決めたような表情で、彼は狩りの後の身支度を終えると、私とフィオを自分の家へと招待してきた。
* * *
「君の住む屋敷よりも狭いし見窄らしいが、我慢してくれ」
お隣さんであるアーサーさんの住む丸太小屋に初めて足を踏み入れた。
質素ではあるが、テーブルや椅子、水汲み場もある、一人で住むにはなんら不便はなさそうな家だった。
私は木で作られた椅子に座り、膝にフィオを降ろすと、アーサーさんは向かい合う形で座った。
「日記には、俺の前職について書いてあっただろう」
「ええ。あの、王宮って書いてありましたが……」
全部じっくり読んだわけではないが、目に飛び込んできて驚いた単語があった。
それは「王宮」や「王族」という文字だ。
「俺は王都の王宮に仕える、騎士団長だった」
「騎士団長……!?」
騎士団というと、王様や皇族を守るために、王宮の警備をしている規律正しい組織のイメージがある。
騎士団長は、その組織でも一番偉い指揮者だろう。
「お若いのに、すごいですね」
常に冷静で思慮深い彼の態度を目の当たりにしているので、信じられる。
「……俺のスキルの『五感強化』のおかげだ。
耳と目がよく、遠くにいる敵や相手の気配を素早く察知できるため、索敵が人よりもうまかっただけだ」
確かに、外敵から王族を守るのが使命の騎士団において、彼の目や耳の良さは重宝されるのだろう。
彼は右手で拳を握ると、青い光が手のひらの周りに纏った。
澄んだ青が、彼のスキルの魔力の色なのだろう。
「少し長くなるが、俺の昔の話を聞いてくれるか」
そっと目を伏せ、長いまつ毛が彼の頬に影を落とす。
暖炉の火に照らされたアーサーさんは、低い声で静かに語り始めた。
遠い昔を、懐かしむように。
彼の中での心境の変化や、徐々に追い詰められていく緊迫した文章を読んで、動悸が止まらなかった。
(何か、とんでもないものを読んでしまった)
震える指で、本を閉じてテーブルに置こうとしたところで、
「ーーーエレナ」
「きゃあ!?」
背後から、男性の低い声で咎められた。
叫び声を上げ振り返ると、逆光の中、片手に二羽の鳥を持ったアーサーさんが、ぼんやりとこちらを見ていた。
その衝撃で私は日記を床へと落としてしまう。
彼の銀髪が、夕焼けに照らされオレンジ色に輝いているが、その顔には一切の表情がなかった。
「ほにゃあ、ほにゃあ!」
「ご、ごめんねフィオ」
私が素っ頓狂な声をあげてしまったため驚いたフィオが泣き出してしまった。
おんぶ紐からおろし、両腕で前抱っこをするとフィオはすぐに落ち着いたが、アーサーさんは私の横を通り抜け、納屋の中に足を踏み入れると、床に落ちた日記を拾っていた。
「……読んだのか」
氷点下の声。
勝手に人の日記を盗み読みしてしまった罪悪感が浮かぶ。
「ごめんなさい、ドアが空いて本が落ちていたので、拾おうと思ったんです……」
これではまるで空き巣や盗人だ。私は目に涙を浮かべながら、嫌われたくないと必死に謝る。
「……そうか」
年季の入った日記の背表紙をなぞり、アーサーさんは日記をテーブルの上に置く。
「いいんだ。いずれ伝えるつもりだった」
アーサーさんは、ふうとため息を付くと、観念したように目を細めた。
「納屋は寒いから、俺の家で話そう」
覚悟を決めたような表情で、彼は狩りの後の身支度を終えると、私とフィオを自分の家へと招待してきた。
* * *
「君の住む屋敷よりも狭いし見窄らしいが、我慢してくれ」
お隣さんであるアーサーさんの住む丸太小屋に初めて足を踏み入れた。
質素ではあるが、テーブルや椅子、水汲み場もある、一人で住むにはなんら不便はなさそうな家だった。
私は木で作られた椅子に座り、膝にフィオを降ろすと、アーサーさんは向かい合う形で座った。
「日記には、俺の前職について書いてあっただろう」
「ええ。あの、王宮って書いてありましたが……」
全部じっくり読んだわけではないが、目に飛び込んできて驚いた単語があった。
それは「王宮」や「王族」という文字だ。
「俺は王都の王宮に仕える、騎士団長だった」
「騎士団長……!?」
騎士団というと、王様や皇族を守るために、王宮の警備をしている規律正しい組織のイメージがある。
騎士団長は、その組織でも一番偉い指揮者だろう。
「お若いのに、すごいですね」
常に冷静で思慮深い彼の態度を目の当たりにしているので、信じられる。
「……俺のスキルの『五感強化』のおかげだ。
耳と目がよく、遠くにいる敵や相手の気配を素早く察知できるため、索敵が人よりもうまかっただけだ」
確かに、外敵から王族を守るのが使命の騎士団において、彼の目や耳の良さは重宝されるのだろう。
彼は右手で拳を握ると、青い光が手のひらの周りに纏った。
澄んだ青が、彼のスキルの魔力の色なのだろう。
「少し長くなるが、俺の昔の話を聞いてくれるか」
そっと目を伏せ、長いまつ毛が彼の頬に影を落とす。
暖炉の火に照らされたアーサーさんは、低い声で静かに語り始めた。
遠い昔を、懐かしむように。