育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
32.新月の夜
任務が始まって数日。
夜泣きでまとまった睡眠が取れない俺は、スプーンでミルクをあげ、満腹で眠ったレオの隣で、つられて眠ってしまった。
念の為『五感強化』を発動したままのため、部屋の扉が開く微かな「カチ」という音で飛び起きる。
すぐさま姿勢を正し、レオを来訪者から見えぬよう隠したあと、扉の影に忍ぶ。
しかし、恐る恐る部屋の中に顔を出したのは、母親である聖女ルイズ様だった。
俺はすぐに扉の影から出て、会釈をする。
「……聖女様、こんな遅くにどうされました」
「お休みのところすみません、少し、レオの顔が見たくて」
ルイズ様は、恥ずかしそうに囁き声で告げると、ベッドに眠るレオの方へと向かった。
「ああ、どんなに聖女の仕事で疲れても、この子の寝顔を見たら全て吹き飛びますわ……」
優しく抱き抱えると、レオはむにゃむにゃと唇を動かしていた。そんな姿さえも、愛おしそうに見つめる母親のルイズ様。
「レオは元気だったかしら」
「ええ、少し魔力の暴走をしましたが、なんとか抑えました」
俺が正直に経過を報告すると、ルイズ様は微かに唇を上げた。
「抱っこしてくれている人の不安を感じたんでしょう。無理な話かもしれないけれど、アーサーさんもリラックスしてくださいね」
優しく微笑む聖女様の言葉に、俺はハッとした。
確かに、私生児かつ聖女の子供だというレオの運命を嘆いて、俺は悶々と苦い気持ちを抱えてしまっていた。
「……承知いたしました。確かに、気を張りすぎていたかもしれません」
俺が小さく頭を下げると、にこりと笑ってルイズ様は首を振る。
すると、また廊下を歩く微かな靴音を、強化した聴力が検知した。
一瞬身構えたが、その足音は聞き慣れたものだったので、俺は静かに部屋の扉を開けて靴音の持ち主を招き入れる。
ゆっくりと、背の高い影が室内に入ってくる。
「……変わりないか」
「はっ」
静かに声をかけてきて部屋へと入ってきたのは、カルヴァン皇帝だった。
「陛下、ここへ来て大丈夫なのですか」
護衛もつけずに離宮まで来るなど不安なので告げるが、
「新月の日は月明かりもなく真っ暗だ。少しだけなら構わんだろう」
皇帝は低い声でそう言い、ベッドの方へと歩みを進める。
「カルヴァン様、来てくださったのですね」
「ああ」
ルイズ様は嬉しそうに皇帝に話しかける。まるで、恋する少女のように頬を染めて。
皇帝はレオを抱っこしている聖女ルイズ様のそばにそっと寄り添うと、彼女の腕の中で眠る赤子を覗き込んだ。
きっと、どうにか二人で会えるよう示し合わせたのだろう。
俺は家族の時間を邪魔しないよう、壁の端に寄った。
「……髪の色も目の色も、笑顔も、君にそっくりだな」
「ええ、意志の強そうな顔は、あなたに似てる」
そう言って赤子を抱く聖女と、寄り添う皇帝は、まさに心から愛し合っている夫婦で、赤子の良き母親と父親にしか見えなかった。
一国を担う最高責任者と、怪我人を癒す気高き聖女が、自分の子供に会うにも人目を憚らなければいけないのなんて。
(ーーー計り知れない重圧なのだろうな)
一介の人間にはわからないゆえに、より一層、か弱いこの赤子を俺が守らねば、という気持ちも高まった。
夜泣きでまとまった睡眠が取れない俺は、スプーンでミルクをあげ、満腹で眠ったレオの隣で、つられて眠ってしまった。
念の為『五感強化』を発動したままのため、部屋の扉が開く微かな「カチ」という音で飛び起きる。
すぐさま姿勢を正し、レオを来訪者から見えぬよう隠したあと、扉の影に忍ぶ。
しかし、恐る恐る部屋の中に顔を出したのは、母親である聖女ルイズ様だった。
俺はすぐに扉の影から出て、会釈をする。
「……聖女様、こんな遅くにどうされました」
「お休みのところすみません、少し、レオの顔が見たくて」
ルイズ様は、恥ずかしそうに囁き声で告げると、ベッドに眠るレオの方へと向かった。
「ああ、どんなに聖女の仕事で疲れても、この子の寝顔を見たら全て吹き飛びますわ……」
優しく抱き抱えると、レオはむにゃむにゃと唇を動かしていた。そんな姿さえも、愛おしそうに見つめる母親のルイズ様。
「レオは元気だったかしら」
「ええ、少し魔力の暴走をしましたが、なんとか抑えました」
俺が正直に経過を報告すると、ルイズ様は微かに唇を上げた。
「抱っこしてくれている人の不安を感じたんでしょう。無理な話かもしれないけれど、アーサーさんもリラックスしてくださいね」
優しく微笑む聖女様の言葉に、俺はハッとした。
確かに、私生児かつ聖女の子供だというレオの運命を嘆いて、俺は悶々と苦い気持ちを抱えてしまっていた。
「……承知いたしました。確かに、気を張りすぎていたかもしれません」
俺が小さく頭を下げると、にこりと笑ってルイズ様は首を振る。
すると、また廊下を歩く微かな靴音を、強化した聴力が検知した。
一瞬身構えたが、その足音は聞き慣れたものだったので、俺は静かに部屋の扉を開けて靴音の持ち主を招き入れる。
ゆっくりと、背の高い影が室内に入ってくる。
「……変わりないか」
「はっ」
静かに声をかけてきて部屋へと入ってきたのは、カルヴァン皇帝だった。
「陛下、ここへ来て大丈夫なのですか」
護衛もつけずに離宮まで来るなど不安なので告げるが、
「新月の日は月明かりもなく真っ暗だ。少しだけなら構わんだろう」
皇帝は低い声でそう言い、ベッドの方へと歩みを進める。
「カルヴァン様、来てくださったのですね」
「ああ」
ルイズ様は嬉しそうに皇帝に話しかける。まるで、恋する少女のように頬を染めて。
皇帝はレオを抱っこしている聖女ルイズ様のそばにそっと寄り添うと、彼女の腕の中で眠る赤子を覗き込んだ。
きっと、どうにか二人で会えるよう示し合わせたのだろう。
俺は家族の時間を邪魔しないよう、壁の端に寄った。
「……髪の色も目の色も、笑顔も、君にそっくりだな」
「ええ、意志の強そうな顔は、あなたに似てる」
そう言って赤子を抱く聖女と、寄り添う皇帝は、まさに心から愛し合っている夫婦で、赤子の良き母親と父親にしか見えなかった。
一国を担う最高責任者と、怪我人を癒す気高き聖女が、自分の子供に会うにも人目を憚らなければいけないのなんて。
(ーーー計り知れない重圧なのだろうな)
一介の人間にはわからないゆえに、より一層、か弱いこの赤子を俺が守らねば、という気持ちも高まった。