育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
34.鼓笛隊の笛
すると、コンコン、と控えめなノックの音が響いた。
「私です、ルイズです」
扉の外で囁き声。普通ならば聞こえない距離だが、『五感強化』した俺は気づいてくれるだろうと分かっているのだろう。
扉の鍵を開けると、笑顔で聖女ルイズ様が入ってきた。
「こんな昼間に来て大丈夫ですか」
「今日は聖女のお仕事はお休みなの。おめでたい日に、怪我人や病人は出ないわ」
ルイズ様はそう言うと、椅子に座っているレオを見つけて抱き上げた。
レオは寝返りをし腰も座り始め、最近はハイハイもするようになった。
王宮の騎士団や護衛隊は、皇帝たちの警備に出払っているし、使用人たちも暗黙の了解で少し町に出てもいいとされているため、宮廷内は静かで、手薄だ。
「少し、感謝祭をまわってみたの。これ、アーサーさんへのお土産です」
ルイズ様は手に持っていた、分厚いベーコンの挟まった焼きたてのパンを手渡してくれた。
「いいのですか。ありがとうございます」
そう言って受け取った瞬間、俺の腹が鳴り、二人で顔を合わせて笑ってしまった。
好物だし、ちょうど昼食を食べていなかった俺は、ありがたく受け取る。
椅子に座って食事をする間、ルイズ様はずっとレオを抱っこし、窓の外を眺めていた。
「レオにも、感謝祭を少しだけ見せてあげたいわ。ーーこの子が、少しでもこの世界の光に触れられるように」
「あーう」
年に一度の感謝祭に、盛り上がっている宮廷の外を眺めながら、ルイズ様は切なげに呟く。
「子連れで街中に行くのは無理です、聖女様。あまり目立っては」
聖女が、髪も目の色もそっくりな子供を連れて歩いていたら、誰の子だと大騒ぎになってしまうだろう。
「そうよね……」
外では皇帝と王妃のパレードが行われているのか、人一倍の歓声が上がっていた。
同盟国との政略結婚で、表向きは祝福された皇帝と王妃。
しかし皇帝の本当に愛した女性は、人目にも触れず、子供を外に出すことさえできない、日陰の聖女。
「……バルコニーから、少し見るぐらいならば」
パンを食べ終わった俺がそう言って、レオを包む用のブランケットを手渡すと、ルイズ様は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
そうしてバルコニーへ続く都を開けて、光の差す外へと一歩外へと出た。
離宮の高層のため、レオを抱いたまま手すりの近くまで行くのは危ないと、ルイズ様はバルコニーの中腹に立っていた。
眼下ではちょうど宮廷音楽隊が演奏をしていて、ガラス窓を隔てない鼓笛隊の音楽は、耳に心地よいリズムだ。
「ほらすごい、ぷっぷっぷーってトランペットの音だ。上手だねぇ」
「うっうー!」
「カラフルな風船も飛んでるよ。今度レオに買ってきてあげようね」
ルイズ様も、抱っこしているレオも、バルコニーから眺める城下町の景色を楽しんでいるようだった。
陽の光を受け、風に靡く二人の金髪は、まるで豊穣の稲穂みたいで美しい。
当たり前の母子のコミュニケーションを、俺はバルコニーの端で微笑ましく眺めていた。
「私です、ルイズです」
扉の外で囁き声。普通ならば聞こえない距離だが、『五感強化』した俺は気づいてくれるだろうと分かっているのだろう。
扉の鍵を開けると、笑顔で聖女ルイズ様が入ってきた。
「こんな昼間に来て大丈夫ですか」
「今日は聖女のお仕事はお休みなの。おめでたい日に、怪我人や病人は出ないわ」
ルイズ様はそう言うと、椅子に座っているレオを見つけて抱き上げた。
レオは寝返りをし腰も座り始め、最近はハイハイもするようになった。
王宮の騎士団や護衛隊は、皇帝たちの警備に出払っているし、使用人たちも暗黙の了解で少し町に出てもいいとされているため、宮廷内は静かで、手薄だ。
「少し、感謝祭をまわってみたの。これ、アーサーさんへのお土産です」
ルイズ様は手に持っていた、分厚いベーコンの挟まった焼きたてのパンを手渡してくれた。
「いいのですか。ありがとうございます」
そう言って受け取った瞬間、俺の腹が鳴り、二人で顔を合わせて笑ってしまった。
好物だし、ちょうど昼食を食べていなかった俺は、ありがたく受け取る。
椅子に座って食事をする間、ルイズ様はずっとレオを抱っこし、窓の外を眺めていた。
「レオにも、感謝祭を少しだけ見せてあげたいわ。ーーこの子が、少しでもこの世界の光に触れられるように」
「あーう」
年に一度の感謝祭に、盛り上がっている宮廷の外を眺めながら、ルイズ様は切なげに呟く。
「子連れで街中に行くのは無理です、聖女様。あまり目立っては」
聖女が、髪も目の色もそっくりな子供を連れて歩いていたら、誰の子だと大騒ぎになってしまうだろう。
「そうよね……」
外では皇帝と王妃のパレードが行われているのか、人一倍の歓声が上がっていた。
同盟国との政略結婚で、表向きは祝福された皇帝と王妃。
しかし皇帝の本当に愛した女性は、人目にも触れず、子供を外に出すことさえできない、日陰の聖女。
「……バルコニーから、少し見るぐらいならば」
パンを食べ終わった俺がそう言って、レオを包む用のブランケットを手渡すと、ルイズ様は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう!」
そうしてバルコニーへ続く都を開けて、光の差す外へと一歩外へと出た。
離宮の高層のため、レオを抱いたまま手すりの近くまで行くのは危ないと、ルイズ様はバルコニーの中腹に立っていた。
眼下ではちょうど宮廷音楽隊が演奏をしていて、ガラス窓を隔てない鼓笛隊の音楽は、耳に心地よいリズムだ。
「ほらすごい、ぷっぷっぷーってトランペットの音だ。上手だねぇ」
「うっうー!」
「カラフルな風船も飛んでるよ。今度レオに買ってきてあげようね」
ルイズ様も、抱っこしているレオも、バルコニーから眺める城下町の景色を楽しんでいるようだった。
陽の光を受け、風に靡く二人の金髪は、まるで豊穣の稲穂みたいで美しい。
当たり前の母子のコミュニケーションを、俺はバルコニーの端で微笑ましく眺めていた。