育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

40.フィオの存在

* * *


「そんな……そんなことがあったんですね」

アーサーさんが建てた丸太小屋の中で、彼の独白を聞いていた私は、その壮絶な彼の過去に聞き入っていた。

暖炉の火が燃え、彼の寂しげな横顔を照らす。

私が拾い、今アーサーさんが手に持っている彼の日記には、レオと過ごした尊い日々と、そして裏切りにあったこと、彼らを守れなかった後悔が綴られていたのだ。

「でも、聖女様とレオは修道院に預けたんですよね。レオはきっと、助かったんじゃないですか」

毒入りのミルクを飲まされたレオだが、聖女である母親が必死で治癒魔法をかけたのなら、命を取り留めたはずだ。

そう信じたい私が話しても、アーサーさんは陰鬱な表情を崩さない。

伏せた長いまつ毛の影が、頬に落ちる。

「……聖女ルイズ様は、傷は治せても呪いは解けないと言っていた。
 あの状態のレオが助かるのは、限りなく不可能だろう」

真っ青な顔色で、痙攣をし、数時間治癒魔法をかけても意識を戻さなかったのだから、とアーサーさんは下唇を噛む。

「そんな……」

罪のない赤子が、皇帝と聖女の私生児だというだけで、呪われた毒を飲まされ、命を奪われるなんて。

「そんなこと、あっていいはずがない」

私は不意に虚しさが込み上げてきて、ポロポロと涙を流してしまった。

その涙が、今腕に抱いているフィオの小さな手のひらに落ち、フィオは不思議そうにその手を見ている。

涙が溢れてしまった私に、アーサーさんはそっとハンカチを手渡してくれた。

礼を言い、目頭にハンカチを当てて涙を拭く。

「君がこの辺境に訪れた時、正直最初は、子供連れで少し嫌だったんだ。
 レオとの生活を思い出すから」

木で作った椅子に座りながら、アーサーさんは腕を組む。

「しかし、君が『神託の巫女』で、育児チートスキルを使えるということ。
 フィオの髪が、聖女様やレオと同じく、金髪で青い目だということに気がつきーー俺は、まさかと思った」

隣の空き家に急に引っ越してきた女性が抱いた、不思議な赤子。
「この子ーーフィオは、レオの弟なんじゃないかと」

アーサーさんは、ルビーのように澄んだ赤い瞳で、まっすぐにフィオを見つめる。

「それを確信したのは、フィオの魔力が暴発した日だ。
 多大なる魔力を秘めていることも、金色の魔力も、聖女の血を引いている確固たる証拠だから」

熱が出て、癇癪を起こしたフィオが、魔力を暴発させ屋敷中の食器や家具を破壊してしまった時。

アーサーさんはすぐに『共鳴』をするよう教えてくれて、ことなきを得たが。

それは、彼がレオを育てていた時に知った知識だったのだろう。

フィオの見た目だけでなく、放つ魔力の強さや色が、彼の実の兄であるレオとそっくりだったため、確信したのだと。

「ーー聖女ルイズ様は、王宮から逃げたあの日すでに、第二子を妊娠していらっしゃったんだ。
 そして山奥の修道院でこの子を産んだんだ、と分かった」

 命を狙われている彼女が王宮に戻ることはあり得ない。
 だから、きっとすでに身籠っていたのだと。フィオの月齢からの妊娠期間も合う。
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