育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

44.新距離で赤面

「し! 静かに」

 唇に指を当て、辺りを見渡しているアーサーさんが、小声で忠告した。

 耳を澄ませるように、山の下を見つめている。

 私には何も聞こえなかったが、『五感強化』の耳で何かを察知したらしい。

じっと、茂みの中をくまなく見ているが、私には何も見えない。

 彼の紅い目が、微かに青く光っているように見えるのは、青い魔力を目に纏っているからだろう。

「……誰かいる、隠れよう!」

囁き声でアーサーさんがそう言うと、私の肩を素早く抱き寄せた。

姿を見られないよう、茂みの影に隠れるようにしゃがみ込む。

しゃがんだアーサーさんの膝の上に乗るような形で抱きしめられ、私は思わず息を呑む。

体を縮めているが、抱っこ紐の中のフィオ潰れて苦しくならないように注意しながらも、アーサーさんの胸の中に収まる。

しばらくそうしていたら、遠くから、ガサガサ、と草むらが踏まれる音が聞こえた。

「そろそろ帰ろう、暗くなったら危ない」

続いて、男性の声。

「しょうがねぇな、今日はあんまりいい獲物が採れなかったか」

「天気もしけてたししょうがねぇ」

 こっそり茂みの陰から山下を見下ろすと、毛皮のジャケットを着て、弓を背に背負っている中年男性二人で、どうやら近くの町に住んでいる猟師のようだ。

 狩りがうまくいかなかったと、不服そうな様子で下山していった。

追手ではなく、たまたま山に狩りをしていただけのようだ。
 昼間にアーサーさんが野鳥を射っていたので、めぼしい獲物は狩り尽くしていたのかもしれない。

「……大丈夫そうだな」

「そう、ですね」

 アーサーさんは私を匿うため、私を胸に抱き寄せて密着していた。

 彼の腕が私の背中に回り、鼓動が近くで聞こえる。

 きっと私の高鳴る鼓動も、彼に聞こえてしまっているのかもしれない。

 追手が来るか見知れないと緊張感に包まれた状況だというのに、なにを照れているんだと恥ずかしくなり、そっと息がかかる距離のアーサーさんを見上げる。

 薄暗くて見えにくかったが、銀髪から覗く彼の耳が、少し紅くなっていることに気が付いた。

 アーサーさんと目が合うと、照れ隠しか、すぐに逸らされてしまった。

「……行こうか」

「は、はい」

 二人で不自然にどぎまぎしていたが、アーサーさんはゆっくりと私の肩と腰を抱きしめる手を緩めた。

「んー……」

 胸に抱いたフィオが、眠りながら小さく唇を尖らせ、寝言を言っていた。
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