育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
45.自覚してしまった
山を登って少ししたところに、小さな納屋があった。
急な坂を、赤子を抱えて登ったものだから、私は肩で息をしていたのを整える。
握った手を、力強くアーサーさんが引いてくれたので、それでもだいぶ楽に登ることができた。
「ここなら、俺の家や君の屋敷も見える。追っ手が来ても、高所の方が攻撃も有利だしな」
納屋の中に入り、隙間から家を見下ろしているアーサーさんに頷く。
狩りの合間に休んだり、簡単に獲物を捌いたりするだけの簡易的な小屋だと言っていたので、雨風を防げる程度のシンプルな作りだ。
私は椅子に腰掛け、緊張をほぐすために深呼吸をする。
くしゅんっ
吸った空気が思ったより冷たくて、私は思わず小さくくしゃみをしてしまった。
鼻を啜っていると、不意に肩に何かをかけられた。
「……体が冷えたんだろう、これを着ておけ」
それはアーサーさんが着ていた上着で、脱いだ彼はシャツ一枚の薄着になってしまっている。
「いえ、大丈夫です。アーサーさんこそ風邪引いちゃうじゃないですか」
「騎士は寒さや暑さに耐える訓練を受けている。
極寒の北部で何日も戦ったこともあるし、この程度は慣れているから平気だ」
淡々と語るその口調で、確かに彼が王宮騎士団のトップであったことを思い出す。
「敵にバレるかもしれないから焚き火はできない。それで耐えてくれ。
フィオには育児チートで暖かくできても、君は寒いだろう」
「じゃあお言葉に甘えて、ありがとうございます」
私は言われた通り、肩にかけられた上着の袖に腕を通す。
(ああ、優しいなアーサーさん。私本当に、この人のこと……)
そこまで考えたところで、はたと我に帰る。
私この人のこと、なんだって?
本当に、好きかも、て思ってしまった。
一見クールで無愛想なのに、優しくて、温かくて、面倒見がいいアーサーさんを、私は心から好きになってしまったんだ、と。
自覚してしまったら、なんだか実感が湧いてきた。
大きめな上着に顔を寄せると、アーサーさんの香りがした。
「そういえば……アーサーさんの左肩、大丈夫なんですか?」
過去の話をしてくれた時に、レオを狙って投擲されたナイフを、身を挺して守った時、左肩にナイフが刺さってしまったと言っていた。
かなり重症で、馬で逃げる際に気を失って落馬し、町医者にかかって一ヶ月近く治療していた、とも。
「ああ、日常生活を送るには問題はない。
だが……騎士団長として日々激しい戦闘をするには、もう役不足かもな」
そう言うと、アーサーさんは着ている白いシャツのボタンを第三ボタンまで外し、肩の傷口を見せてくれた。
「うう、痛そうですね……」
「町医者で難しい治療はできなかった。
傷は残ったけど命は助かったから良かったよ」
左肩には真一文字の赤い傷が残っており、そこをダイナミックに縫った縫合跡が生々しく、血や傷跡が苦手な私は目を瞑ってしまう。
アーサーさんはそれだけ見せると、苦笑しながら服を正した。
私が目を瞑ったのは、傷口を見たくない意味もあったが、
(急に脱いだから、びびびっくりした……! 傷見せるだけよ、動揺しすぎ!)
スルスルと服を脱ぎ始めたので、びっくりして赤面してしまった。
「好きだ」と自覚した男性の、あらわになった鎖骨や胸元、たくましい腕の筋肉に、目を奪われてしまったのも、素直な反応だろう。
(私のばかばか、緊張感なさすぎ……!)
反省しながら、邪念を拭うために目を瞑り、心頭滅却する。
しかしアーサーさんはなんとも思っていないのか、
「心配させてすまない。だが、君とフィオを守るのには問題ないから安心してくれ」
と真摯に言い、私の向かいの椅子に座った。
急な坂を、赤子を抱えて登ったものだから、私は肩で息をしていたのを整える。
握った手を、力強くアーサーさんが引いてくれたので、それでもだいぶ楽に登ることができた。
「ここなら、俺の家や君の屋敷も見える。追っ手が来ても、高所の方が攻撃も有利だしな」
納屋の中に入り、隙間から家を見下ろしているアーサーさんに頷く。
狩りの合間に休んだり、簡単に獲物を捌いたりするだけの簡易的な小屋だと言っていたので、雨風を防げる程度のシンプルな作りだ。
私は椅子に腰掛け、緊張をほぐすために深呼吸をする。
くしゅんっ
吸った空気が思ったより冷たくて、私は思わず小さくくしゃみをしてしまった。
鼻を啜っていると、不意に肩に何かをかけられた。
「……体が冷えたんだろう、これを着ておけ」
それはアーサーさんが着ていた上着で、脱いだ彼はシャツ一枚の薄着になってしまっている。
「いえ、大丈夫です。アーサーさんこそ風邪引いちゃうじゃないですか」
「騎士は寒さや暑さに耐える訓練を受けている。
極寒の北部で何日も戦ったこともあるし、この程度は慣れているから平気だ」
淡々と語るその口調で、確かに彼が王宮騎士団のトップであったことを思い出す。
「敵にバレるかもしれないから焚き火はできない。それで耐えてくれ。
フィオには育児チートで暖かくできても、君は寒いだろう」
「じゃあお言葉に甘えて、ありがとうございます」
私は言われた通り、肩にかけられた上着の袖に腕を通す。
(ああ、優しいなアーサーさん。私本当に、この人のこと……)
そこまで考えたところで、はたと我に帰る。
私この人のこと、なんだって?
本当に、好きかも、て思ってしまった。
一見クールで無愛想なのに、優しくて、温かくて、面倒見がいいアーサーさんを、私は心から好きになってしまったんだ、と。
自覚してしまったら、なんだか実感が湧いてきた。
大きめな上着に顔を寄せると、アーサーさんの香りがした。
「そういえば……アーサーさんの左肩、大丈夫なんですか?」
過去の話をしてくれた時に、レオを狙って投擲されたナイフを、身を挺して守った時、左肩にナイフが刺さってしまったと言っていた。
かなり重症で、馬で逃げる際に気を失って落馬し、町医者にかかって一ヶ月近く治療していた、とも。
「ああ、日常生活を送るには問題はない。
だが……騎士団長として日々激しい戦闘をするには、もう役不足かもな」
そう言うと、アーサーさんは着ている白いシャツのボタンを第三ボタンまで外し、肩の傷口を見せてくれた。
「うう、痛そうですね……」
「町医者で難しい治療はできなかった。
傷は残ったけど命は助かったから良かったよ」
左肩には真一文字の赤い傷が残っており、そこをダイナミックに縫った縫合跡が生々しく、血や傷跡が苦手な私は目を瞑ってしまう。
アーサーさんはそれだけ見せると、苦笑しながら服を正した。
私が目を瞑ったのは、傷口を見たくない意味もあったが、
(急に脱いだから、びびびっくりした……! 傷見せるだけよ、動揺しすぎ!)
スルスルと服を脱ぎ始めたので、びっくりして赤面してしまった。
「好きだ」と自覚した男性の、あらわになった鎖骨や胸元、たくましい腕の筋肉に、目を奪われてしまったのも、素直な反応だろう。
(私のばかばか、緊張感なさすぎ……!)
反省しながら、邪念を拭うために目を瞑り、心頭滅却する。
しかしアーサーさんはなんとも思っていないのか、
「心配させてすまない。だが、君とフィオを守るのには問題ないから安心してくれ」
と真摯に言い、私の向かいの椅子に座った。