育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

48.フィオは私が守る

真っ暗な山奥の納屋の中、緊張感をもって潜んでいたら、心身ともに疲弊していたのか、私はうたたねをしてしまった。

体温の高い赤ちゃんを抱いて、アーサーさんの上着を着た私は、うとうとと舟を漕いでしまう。

ふと目を覚ますと、薄暗い部屋の中、窓の隙間から辺りを警戒しつつ、臨戦態勢で立ったままのアーサーさんの姿。

「アーサーさん、眠くないですか? 少しでも休んだ方が……」

「気を抜いた時を敵は狙ってくる。疲れがピークに達した今がチャンスだろうからな」

私の言葉に首を横に振り、アーサーさんは警戒の態勢を崩さない。

数年前、感謝祭のにぎやかな雰囲気にほだされ、聖女様とレオをバルコニーに出してしまったことを、未だに悔いているのかもしれない。

私は寝息を立てるフィオをぎゅっと抱きしめたまま、唇を引き締める。

「……敵の狙いは、皇帝の子供であるフィオだろう。
 君には恨みも、狙う理由もないだろうから、フィオは俺が預かり、君は一人で逃げた方が良いかもしれない」

アーサーさんは私の気持ちや体力を尊重してか、このつらい状況に巻き込まないように考えてくれているようだ。

確かに、子育てを依頼されただけの私は、殺す理由も価値もないので、フィオを手放せば私は無事に元の生活に戻れるのかもしれない。

(でも……それでいいの?)

フィオをアーサーさんに渡して、一人で屋敷に戻る?
それか王宮に行き、皇帝や司祭に事情を話してみる?
目をつぶれば、また平凡な、日本の保育士の生活に戻るかも。

(そんなの、いやだ。私はフィオを守るって決めたんだ)

自分が平和な環境に行ったって、きっと後悔するだけだ。

短い時間だけれど、フィオと過ごした時間はかけがえのないもので、自分の保身のために彼を見捨てることなんてできない。

「いえ、私は自分の意志でここにいます。
 フィオを守りたいと、心から望んでいるので」

頼まれたからとか、巻き込まれたからではない。

私の意志で、この小さな手を守りたい。

何の罪もないこの子を、祝福されたお日様の下で育てたいと、心から思うのだ。

 私の言葉を聞いて、アーサーさんはじっと私の瞳を見つめていたが、観念したかのように、ふっと口元を緩めた。

「君は強いな。薪も割るのも、魔力の暴走を抑えるのも俺が手伝ったが、大事な状況ではいつも君に救われる」

 その言葉は、とてもまっすぐに私の心へと響く。

「だから、ほっとけない」

 ドジで、すぐ誤解しては突っ走るこの私を、ほっとけないと。目で追ってしまうのだと、彼が語っている。

「俺も、心から守りたいと思った女性は君が初めてだ」

 優しく微笑むアーサーさんと、私の心は確かに近づいていた。

 フィオと三人で重ねた手のひらの温かさを思い出す。
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