育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
49.危機一髪
「それって、どういう意味……」
照れた私が、言葉の意味を深く知りたくて、決定的な言葉が欲しくて聞き返すと、
「しっ……静かに」
アーサーさんが、急に表情をこわばらせ、指を立てて口元に添えた。
咄嗟に口をつぐむが、私の耳には、夜風に揺れる木々の擦れた音しか届かない。
「……足音がする。一人、成人男性」
『五感強化』の能力を持ったアーサーさんの聴力は野生動物並みに鋭い。静寂の中に足音を察知し、さらに歩き方や音の大きさから体重や背格好なども当てることができるらしい。
彼は腰に下げていた剣を鞘から抜くと、右手に構え、しゃがんだ体勢のまま扉の裏へと向かう。
姿勢を下げるよう手で合図をされ、私は胸の中のフィオをぎゅっと抱きしめたまま、扉からは見えないよう姿勢を下げる。
アーサーさんはドアノブに静かに手をかけ、外の音に耳をすませていたが、そこで勢いよくドアを開いた。
バンッ!
相手を怯ませるためにわざと大きな音を立てて扉を開け、剣を構えて臨戦体制をとっていたが、外には誰もいないようだ。
風で木々がざわめき、暗い森の中には、一匹のタヌキが驚いたようにこちらを見ながら尻尾を振っていた。
「あら、音の主は野生のタヌキさんでしたか」
安堵した私がほっと息をついて言うが、アーサーさんは納得していないような表情だ。
「いや……今のは間違いなく軍靴で歩く足音だった」
馬に乗ったり戦ったりするため、軍人用の靴は頑丈にできていると聞くので、足音も普通の靴とは違うのかもしれない。
騎士団出身のアーサーさんがそれを聴き間違えることはなさそうだが、外には動物以外気配がない。
しかし次の瞬間、ハッと息を呑んだアーサーさんがすごい勢いでこちらを振り返った。
「危ないエレナ!!」
私とフィオを抱きかかえるようにして、一気に飛び退く。
その刹那、
パリィイン!!
窓が割れ、ガラスの破片が飛び散る音。
鈍い音を立てて、外から投げ入れられたナイフが、さっきまで私とフィオが座っていた席の奥の壁に突き刺さっていた。
一瞬でもアーサーさんが遅れたら、その鈍く光る凶器の刃が、フィオに刺さっていたかもしれないと、血の気が一気に引いた。
「フィオも無事か!?」
「は、はい……!」
「ふぇぇ、えええん……!」
衝撃で起きてしまったフィオが、何が起きたのかと瞬きをしている。
(なに、どこから……!?)
私は恐怖で自分の指が小刻みに震えていることに気が付いた。
「窓の外にいるんだろう、姿を現せ!」
アーサーさんが厳しく叫ぶと、背後から、舌打ちと共に男性の声が聞こえた。
「チッ……外したか。相変わらず耳だけはいいことだ、騎士団長様」
割れたガラスの破片を蹴散らし、窓枠を掴んで堂々と一人の男が部屋の中に入ってきた。
茶髪で頬に傷のある男は、膝や胸に防具をつけた軽装だが、腰には何本ものナイフをぶら下げている。
逃げも隠れもしない、追っ手の不敵っぷりが不気味で、私はぎゅっとフィオを抱きしめて後ずさる。
「お前、コンラッドか……?」
私とフィオを守るように一歩前に出ながら、アーサーさんはその追っ手の名前を呼んだ。
「お知合い、ですか?」
「……騎士団時代の部下だ」
苦々しくそう呟いたアーサーさんは、かつての部下が歯向かってきた現実を受け止め、少なからずショックを受けているような様子だった。
「はっ、俺はあんたを上司だと思ったことなんて一度もないけどな」
コンラッドと呼ばれた男は、肩をすくめながら嫌味を言い放つ。
しかし、その手にはナイフが握られており、少しでも隙を見せればまた投擲されるのがわかる。
照れた私が、言葉の意味を深く知りたくて、決定的な言葉が欲しくて聞き返すと、
「しっ……静かに」
アーサーさんが、急に表情をこわばらせ、指を立てて口元に添えた。
咄嗟に口をつぐむが、私の耳には、夜風に揺れる木々の擦れた音しか届かない。
「……足音がする。一人、成人男性」
『五感強化』の能力を持ったアーサーさんの聴力は野生動物並みに鋭い。静寂の中に足音を察知し、さらに歩き方や音の大きさから体重や背格好なども当てることができるらしい。
彼は腰に下げていた剣を鞘から抜くと、右手に構え、しゃがんだ体勢のまま扉の裏へと向かう。
姿勢を下げるよう手で合図をされ、私は胸の中のフィオをぎゅっと抱きしめたまま、扉からは見えないよう姿勢を下げる。
アーサーさんはドアノブに静かに手をかけ、外の音に耳をすませていたが、そこで勢いよくドアを開いた。
バンッ!
相手を怯ませるためにわざと大きな音を立てて扉を開け、剣を構えて臨戦体制をとっていたが、外には誰もいないようだ。
風で木々がざわめき、暗い森の中には、一匹のタヌキが驚いたようにこちらを見ながら尻尾を振っていた。
「あら、音の主は野生のタヌキさんでしたか」
安堵した私がほっと息をついて言うが、アーサーさんは納得していないような表情だ。
「いや……今のは間違いなく軍靴で歩く足音だった」
馬に乗ったり戦ったりするため、軍人用の靴は頑丈にできていると聞くので、足音も普通の靴とは違うのかもしれない。
騎士団出身のアーサーさんがそれを聴き間違えることはなさそうだが、外には動物以外気配がない。
しかし次の瞬間、ハッと息を呑んだアーサーさんがすごい勢いでこちらを振り返った。
「危ないエレナ!!」
私とフィオを抱きかかえるようにして、一気に飛び退く。
その刹那、
パリィイン!!
窓が割れ、ガラスの破片が飛び散る音。
鈍い音を立てて、外から投げ入れられたナイフが、さっきまで私とフィオが座っていた席の奥の壁に突き刺さっていた。
一瞬でもアーサーさんが遅れたら、その鈍く光る凶器の刃が、フィオに刺さっていたかもしれないと、血の気が一気に引いた。
「フィオも無事か!?」
「は、はい……!」
「ふぇぇ、えええん……!」
衝撃で起きてしまったフィオが、何が起きたのかと瞬きをしている。
(なに、どこから……!?)
私は恐怖で自分の指が小刻みに震えていることに気が付いた。
「窓の外にいるんだろう、姿を現せ!」
アーサーさんが厳しく叫ぶと、背後から、舌打ちと共に男性の声が聞こえた。
「チッ……外したか。相変わらず耳だけはいいことだ、騎士団長様」
割れたガラスの破片を蹴散らし、窓枠を掴んで堂々と一人の男が部屋の中に入ってきた。
茶髪で頬に傷のある男は、膝や胸に防具をつけた軽装だが、腰には何本ものナイフをぶら下げている。
逃げも隠れもしない、追っ手の不敵っぷりが不気味で、私はぎゅっとフィオを抱きしめて後ずさる。
「お前、コンラッドか……?」
私とフィオを守るように一歩前に出ながら、アーサーさんはその追っ手の名前を呼んだ。
「お知合い、ですか?」
「……騎士団時代の部下だ」
苦々しくそう呟いたアーサーさんは、かつての部下が歯向かってきた現実を受け止め、少なからずショックを受けているような様子だった。
「はっ、俺はあんたを上司だと思ったことなんて一度もないけどな」
コンラッドと呼ばれた男は、肩をすくめながら嫌味を言い放つ。
しかし、その手にはナイフが握られており、少しでも隙を見せればまた投擲されるのがわかる。