育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
第二章 辺境生活開始!

5.フィオとの生活

フィオとの生活が始まった。

「おはよう、フィオ!」
「あうあー」

 カーテンを開けると、陽の光を浴びてニコニコとまぶしい笑顔で笑ってくれるフィオ。

 鏡に映る美少女な自分には未だに慣れないが、顔を洗い、クローゼットに置いてあったシンプルなワンピースにエプロンをつけ、身支度を整える。

「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」
「おっと、はいはい」

 ベッドの上で泣く声がしたので、急いで髪を結ってフィオの前に向かう。

 それにしても、「神託の巫女」の育児チートのスキルとやらは、凄すぎる。

 まず、泣いている子供の額に、今泣いている「理由」が文字で浮かんでいるのだ。

 フィオの額には、大きな文字で「空腹」と書かれていた。

 他にも「眠い」・「暑い」・「寒い」・「孤独」・「不快」などの種類があり、何故泣いているのかが秒で分かるのがすごすぎる。

(園児たちが何で泣いているのかわからないことなんてしょっちゅうだし、このくらいの小さい子を育てているお母さんは、絶対欲しい能力だろうなぁ)

 とにかく今は、「空腹」らしい。
理由が分かったところで、私はさらにスキルを使う。

「《慈しみの抱擁》発動、《自動ミルク整調》オン」
 そう唱えると私の右手に光が集まり、キラキラと輝いたと思うと、いつの間にか哺乳瓶が握られているのだ。

 哺乳瓶の中には、人肌に温められたミルクが適量入っている。
 私は生みの親ではないので母乳は出ないし、ミルクをどこで調達しようと悩んでいたが、説明のウィンドウが開いたのですぐわかった。

 粉ミルクで作るにしても、熱湯で粉を溶かして人肌に冷ます作業が手間と時間がかかるのに、一瞬でできてしまうのがまさに「チート」である。

 能力説明のウィンドウには、『タンパク質、ビタミン、ミネラル、鉄分配合。母乳に限りなく近い成分を含む』と粉ミルクの缶の成分表のような文言が書いてある。

「はーい、ミルク飲みましょうね」

 中世な世界観にふさわしくないプラスチックの容器だが、本能なのかフィオは哺乳瓶に口をつけ、一生懸命ちゅーちゅーとミルクを吸い込んでいく。

 よっぽどおなかがすいていたのだろう。
 すぐに飲み切ってしまったので唇についたミルクを布で拭ってあげる。

 そして縦抱っこをし、とんとんと何度か背中をたたくと、

「……けふっ」

 立派なゲップをするフィオ。

「よく出ましたねー優秀優秀!」

 私がすぐにゲップを出したフィオの髪をよしよしと撫でて揺らしてあげるが、その顔は何や気難しそうだ。

 赤子なりに唇をへの字に曲げ、まだ生えそろっていない眉毛を寄せている。

 そうかと思ったら、彼の額から「空腹」の文字が消え、次に「不快」の文字がでかでかと表示された。

「あっ、ミルク飲んだからおしっこした!?」

 慌ててお尻のあたりを確認すると、しっとりと濡れている。
 もちろんこの世界におむつなんて便利なものはないので、赤ちゃんの小さな肌着はびしょびしょになっており、普通ならばそれを洗って何着も着まわすのだろうが。

「《慈しみの抱擁》オン、《自動衣服洗浄》発動」

 私がそう唱えると、フィオのおなかから足のあたりにキラキラと光が包み込む。

 温かい光は、今まさに用を足して濡れていた下半身の布をきれいさっぱり洗浄し、乾かしてくれている。おむつをつける必要がなく、いつでも清潔でサラサラな肌着に戻るのである。

「ん-、ふふ!」

 フィオはにっこりと笑い、額に浮かび上がっていた「不快」の文字がゆっくりと空中に消えていった。

 保育園での園児のおむつを替えは、一人だけでも大変なのに、何人もを一日に何回も行うのでくたくたになってしまうのに。
 一瞬で終わるので非常に楽である。

 それが、「神託の巫女」である証明なのだろうか。
 ミルク、げっぷ、おむつ替えをいとも簡単に終わらせてしまった私は、フィオをそっとベビーベッドへと寝かせる。

「育児チートスキル、ありがたすぎる! 
 これなら、辺境での育児も余裕だよね」

 すやすやと寝息を立て始めたフィオの、ぷにぷにのほっぺを撫でつつ、私は便利な自分の特性に内心ガッツポーズをしていた。
< 5 / 67 >

この作品をシェア

pagetop