育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
52.もう2度と繰り返さない
テーブルを蹴り上げられ、一瞬怯んだ隙にフィオを抱いたエレナが小屋の外へと出ていく巣旗を見たコンラッドが、ふうとため息をつく。
「小癪な……まあいい、赤子を抱いた女なんて後でどうせ追いつける。
まずはアンタを仕留めてから、ゆっくり向かうか」
部屋の中で、コンラッドが鼻で笑いながら言う。
「やってみろ、外道」
心底軽蔑しきった表情で、アーサーは侮蔑の言葉を吐き捨てる。
「さっきの隙に、女と子供を逃すのではなく俺に攻撃してれば、勝機があったかもしれないのに。
甘くなったな、騎士団長」
コンラッドは前髪を掻き上げ、二人を確実に逃すためのアーサーの行動を馬鹿にする。
(……お前には一生、俺の気持ちはわからないだろうな)
アーサーは、嫉妬と権力欲に堕ちた、元部下に哀れみの視線を送る。
「騎士団一の最強だったアンタが、ガキの子守をした挙句、こんなド田舎で隠居生活してるんだから、俺は悲しいよ」
以前は若くして指導者のアーサーに憧れていたが、いつしかそのスキルや周りからの期待に対して冷徹なところも、浮ついていないところも、鼻につくようになった。
そんな憎き相手が、腑抜けてしまって残念だと言わんばかりに、コンラッドは剣を構えた。
「アンタを殺して、空いている騎士団長の席には俺が座ろう」
そう言って、剣先をアーサーへと向ける。
(地位と名誉、権威や金か。
そんなくだらんものために、こいつはレオを……!)
背後の壁に刺さったナイフも、今コンラッドが持っているものも、レオの護衛中に投げられ、自分の左肩に刺さったものと同じだ。
アーサーは右手に、王宮騎士団の紋様の刻まれた、誇り高き剣を掲げる。
「もう、繰り返さない……!」
大切な子供を失うことも、全てを諦めることも、もうしない。
エレナとフィオを守るために、己の全てを賭けよう。
アーサーは剣を構え、コンラッドと視線を合わせる。
いくつもの戦を乗り越え、日々鍛錬してきた騎士の二人の対峙は、一瞬。
コンラッドが小さく息を吸い、一歩踏み出す。
脳天から降りてきた剣先をアーサーは自身の剣で受け止める。
キイィン!
金属音が狭い納屋に響き渡る。
鍔迫り合いをしているが、力は互角。
至近距離のコンラッドはニヤリと笑い、アーサーの赤い瞳を覗き込む。
「力は鈍っていないようだな騎士団長様よぉ……」
「毎日薪を割って、子供を抱っこしていたから、な……っ!」
コンラッドの嫌味に返答し、アーサーは力強く剣戟を繰り返す。
相手は反撃を繰り返すが、執拗にアーサーの左肩に標準を合わせている。
「……っ!」
剣で受け止め、弾き返す時、古傷が開くかのような鈍痛がアーサーに走る。
一年ほど前、王宮のバルコニーで投げられ、身を挺して守った際に刺さったナイフの傷が、じわじわとアーサーの体力を削っていく。
「アンタは聖女も子供も守れなかった。
今回もそうさ、神託の巫女も、弟も逃げられない」
コンラッドは下卑た笑いを浮かべ、アーサーの左肩と、心の傷の弱点を執拗に攻め込んでいく。
左肩を庇いながら、アーサーの脳裏によぎる。
穏やかに笑う、レオと聖女ルイズ様の笑顔。
そして、今自分のそばで笑っていた、フィオとエレナの顔。
もう二度と失いたくない。
「もう、あの時のようなことは……!」
歯を食いしばり痛みに耐えながら、アーサーは必死に思案する。
「小癪な……まあいい、赤子を抱いた女なんて後でどうせ追いつける。
まずはアンタを仕留めてから、ゆっくり向かうか」
部屋の中で、コンラッドが鼻で笑いながら言う。
「やってみろ、外道」
心底軽蔑しきった表情で、アーサーは侮蔑の言葉を吐き捨てる。
「さっきの隙に、女と子供を逃すのではなく俺に攻撃してれば、勝機があったかもしれないのに。
甘くなったな、騎士団長」
コンラッドは前髪を掻き上げ、二人を確実に逃すためのアーサーの行動を馬鹿にする。
(……お前には一生、俺の気持ちはわからないだろうな)
アーサーは、嫉妬と権力欲に堕ちた、元部下に哀れみの視線を送る。
「騎士団一の最強だったアンタが、ガキの子守をした挙句、こんなド田舎で隠居生活してるんだから、俺は悲しいよ」
以前は若くして指導者のアーサーに憧れていたが、いつしかそのスキルや周りからの期待に対して冷徹なところも、浮ついていないところも、鼻につくようになった。
そんな憎き相手が、腑抜けてしまって残念だと言わんばかりに、コンラッドは剣を構えた。
「アンタを殺して、空いている騎士団長の席には俺が座ろう」
そう言って、剣先をアーサーへと向ける。
(地位と名誉、権威や金か。
そんなくだらんものために、こいつはレオを……!)
背後の壁に刺さったナイフも、今コンラッドが持っているものも、レオの護衛中に投げられ、自分の左肩に刺さったものと同じだ。
アーサーは右手に、王宮騎士団の紋様の刻まれた、誇り高き剣を掲げる。
「もう、繰り返さない……!」
大切な子供を失うことも、全てを諦めることも、もうしない。
エレナとフィオを守るために、己の全てを賭けよう。
アーサーは剣を構え、コンラッドと視線を合わせる。
いくつもの戦を乗り越え、日々鍛錬してきた騎士の二人の対峙は、一瞬。
コンラッドが小さく息を吸い、一歩踏み出す。
脳天から降りてきた剣先をアーサーは自身の剣で受け止める。
キイィン!
金属音が狭い納屋に響き渡る。
鍔迫り合いをしているが、力は互角。
至近距離のコンラッドはニヤリと笑い、アーサーの赤い瞳を覗き込む。
「力は鈍っていないようだな騎士団長様よぉ……」
「毎日薪を割って、子供を抱っこしていたから、な……っ!」
コンラッドの嫌味に返答し、アーサーは力強く剣戟を繰り返す。
相手は反撃を繰り返すが、執拗にアーサーの左肩に標準を合わせている。
「……っ!」
剣で受け止め、弾き返す時、古傷が開くかのような鈍痛がアーサーに走る。
一年ほど前、王宮のバルコニーで投げられ、身を挺して守った際に刺さったナイフの傷が、じわじわとアーサーの体力を削っていく。
「アンタは聖女も子供も守れなかった。
今回もそうさ、神託の巫女も、弟も逃げられない」
コンラッドは下卑た笑いを浮かべ、アーサーの左肩と、心の傷の弱点を執拗に攻め込んでいく。
左肩を庇いながら、アーサーの脳裏によぎる。
穏やかに笑う、レオと聖女ルイズ様の笑顔。
そして、今自分のそばで笑っていた、フィオとエレナの顔。
もう二度と失いたくない。
「もう、あの時のようなことは……!」
歯を食いしばり痛みに耐えながら、アーサーは必死に思案する。