育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
53.甘いな、団長
(左肩への細かい攻撃が続く。きっとその次に、振りかぶって俺の急所を狙ってくるだろう。
その時に隙が生まれるはずだ)
『五感強化』のスキルを最大限に利用する。
至近距離にてナイフを振り回すコンラッドの狙いはわかった。
痛みで油断したところ、確実に息の根を止めにくるつもりなんだろう。
まっすぐで純粋な騎士団での部下の彼とは違う、小癪で汚い戦法だ、と心の中で吐き捨てる。
「くっ……!」
アーサーがナイフを弾き、軸足がよろめきたい体幹がブレた瞬間、
「これで終わりだ、騎士団長!」
コンラッドは下卑た笑みを浮かべ、予想通り剣を抜き心臓目掛けて素早く振りかぶってきた。
その大きな動作を、『五感強化』で強化したアーサーの瞳は見逃さない。
振りかぶる服の布ずれ、息遣い、靴の音も全て耳が探知する。
アーサーは右手に持った剣を、コンラッドの脇腹へと薙いだ。
最小限の動きで素早く、相手に突き刺す。
「なっ……! ぐっ……!」
反撃されると思っていなかったコンラッドは、握った剣を取り落とし、脇腹を押さえてうずくまる。
血が流れ、床に跡を残す。
膝をついてしまったコンラッドは、どうにか態勢を正そうと上半身を起こすが、
「終わりなのは、貴様だ」
アーサーの持つ刃先が、首筋に突き立てられていて、動きを止める。
脇腹を押さえたまま、コンラッドは深く息を吸い、持っていたナイフを床に下ろした。
「はぁ……くそ……」
コンラッドは悔しそうに髪を掻きむしると、顔を歪めた。
「……殺せよ」
皇帝を守るはずの騎士団員が裏切り、皇帝の息子を暗殺する間者に堕ちたのだ。
それが白日の元に晒されれば、生きてなどいられないと思ったのだろう。
脇腹を押さえるコンラッドが諦めたように言うも、
「貴様など、殺す価値もない」
権力に目が眩んで、子供を手にかける男など手を下すまでもないと、アーサーは狩猟用のロープを引き出しから取り出し、コンラッドを後ろ手に縛った。
さらに血を流す脇腹に布を巻き、失血死しないように止血する。
「……お前の証言は、王妃派のランティス宰相も罰する証拠になる」
ここで打ち取ったり、死なれる方が困ると、憎しみを押し込めて冷静にアーサーは語る。
壁の柱に後ろ手で縛りつけ、逃走できないように捕獲する。
「彼女たちを助けたら王宮に通報する。ここで朝まで反省してろ」
最優先は、こんな夜に森を逃げているエレナとフィオを助けに行き、もう大丈夫だと伝えることだ。
「はっ、甘くなったな、騎士団長様は」
「……頭を冷やしておけ」
夜はずいぶん冷えるし丁度いいと吐き捨て、アーサーは納屋を飛び出し森の中へと駆けていった。
その銀髪の後ろ姿を眺めながら、痛みに耐えると息を漏らすコンラッド。
『五感強化』のスキルを持ち、皇帝の子の護衛を任された、唯一無二の強さの元騎士団長の背中を眺め、
「……ほんと甘いよ、アンタ。追手が俺だけだって思っているなんてね」
脇腹に結ばれた、止血用の布を眺めながら、その甘さを噛み締める。
「もうすぐ、あっちも片が付く頃合いか」
くくく、と縄で縛られたコンラッドは一人、下卑た笑い声をあげていた。
その時に隙が生まれるはずだ)
『五感強化』のスキルを最大限に利用する。
至近距離にてナイフを振り回すコンラッドの狙いはわかった。
痛みで油断したところ、確実に息の根を止めにくるつもりなんだろう。
まっすぐで純粋な騎士団での部下の彼とは違う、小癪で汚い戦法だ、と心の中で吐き捨てる。
「くっ……!」
アーサーがナイフを弾き、軸足がよろめきたい体幹がブレた瞬間、
「これで終わりだ、騎士団長!」
コンラッドは下卑た笑みを浮かべ、予想通り剣を抜き心臓目掛けて素早く振りかぶってきた。
その大きな動作を、『五感強化』で強化したアーサーの瞳は見逃さない。
振りかぶる服の布ずれ、息遣い、靴の音も全て耳が探知する。
アーサーは右手に持った剣を、コンラッドの脇腹へと薙いだ。
最小限の動きで素早く、相手に突き刺す。
「なっ……! ぐっ……!」
反撃されると思っていなかったコンラッドは、握った剣を取り落とし、脇腹を押さえてうずくまる。
血が流れ、床に跡を残す。
膝をついてしまったコンラッドは、どうにか態勢を正そうと上半身を起こすが、
「終わりなのは、貴様だ」
アーサーの持つ刃先が、首筋に突き立てられていて、動きを止める。
脇腹を押さえたまま、コンラッドは深く息を吸い、持っていたナイフを床に下ろした。
「はぁ……くそ……」
コンラッドは悔しそうに髪を掻きむしると、顔を歪めた。
「……殺せよ」
皇帝を守るはずの騎士団員が裏切り、皇帝の息子を暗殺する間者に堕ちたのだ。
それが白日の元に晒されれば、生きてなどいられないと思ったのだろう。
脇腹を押さえるコンラッドが諦めたように言うも、
「貴様など、殺す価値もない」
権力に目が眩んで、子供を手にかける男など手を下すまでもないと、アーサーは狩猟用のロープを引き出しから取り出し、コンラッドを後ろ手に縛った。
さらに血を流す脇腹に布を巻き、失血死しないように止血する。
「……お前の証言は、王妃派のランティス宰相も罰する証拠になる」
ここで打ち取ったり、死なれる方が困ると、憎しみを押し込めて冷静にアーサーは語る。
壁の柱に後ろ手で縛りつけ、逃走できないように捕獲する。
「彼女たちを助けたら王宮に通報する。ここで朝まで反省してろ」
最優先は、こんな夜に森を逃げているエレナとフィオを助けに行き、もう大丈夫だと伝えることだ。
「はっ、甘くなったな、騎士団長様は」
「……頭を冷やしておけ」
夜はずいぶん冷えるし丁度いいと吐き捨て、アーサーは納屋を飛び出し森の中へと駆けていった。
その銀髪の後ろ姿を眺めながら、痛みに耐えると息を漏らすコンラッド。
『五感強化』のスキルを持ち、皇帝の子の護衛を任された、唯一無二の強さの元騎士団長の背中を眺め、
「……ほんと甘いよ、アンタ。追手が俺だけだって思っているなんてね」
脇腹に結ばれた、止血用の布を眺めながら、その甘さを噛み締める。
「もうすぐ、あっちも片が付く頃合いか」
くくく、と縄で縛られたコンラッドは一人、下卑た笑い声をあげていた。