育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
第六章 憎しみの連鎖に終止符を
54.聖職者の姿
鬱蒼と生い茂る森の中で、私は息を潜めていた。
寒さから泣き出しそうになっていたフィオを抱きしめ、
「≪慈しみの抱擁≫発動、≪適温管理≫オン」
子供が眠るのにちょうどいい、暖かさが腕いっぱいに広がる。
「よしよし、よく眠ってね」
本来ならば柔らかなベッドでゆっくりと寝ている時間なのに、真夜中の野外で私に抱っこされているのだから、フィオに申し訳なくも思う。
(でも、あなたを守るためだから)
アーサーさんは一人、逆恨みしている愚かな部下と戦っているのだ。私たちを守るために。
きっと、無傷で迎えに来てくれると信じよう。
私は落ち着いたフィオをしっかりと抱っこにもの中に入れ、再び立ち上がる。
挫いた足首がズキズキと痛んだが、弱音を吐いてはいられない。
蔦に足を取られぬように注意しながらしばらく進んでいたら、不意に視界が開いた。
辺境と呼ばれる所以の、見渡す限り草原の場所に出てしまったようだ。
星々が夜空いっぱいに広がり、現代日本のように、建物やビルの看板など、視界を遮るものは一つもない。
(いつの間にか山を降りてしまったんだ)
星が綺麗だ、とぼんやり眺めながらも、ここでは視界が良すぎるので、どこかに隠れてアーサーさんを待とうと思った時。
「こんな夜更けに、お嬢さん一人で歩いていたら、危ないですよ」
と声が聞こえた。
私がハッとして振り向くと、少し離れたところに人影が立っていた。
「だ、誰!?」
心臓がバクバクと鼓動し、思わず叫び声が出る。
ぼんやりとした人影はゆっくりと暗闇から姿を表すと、白いローブに身を包んだ、中年の男性だった。
「『神託の巫女』の方ですよね。私は聖職者です。
お手紙をいただき、皇帝の子をお守りするために参りました」
目を凝らしてよく見ると、胸元に十字架のロザリオを掛けており、頭には丸い帽子をかぶっている。聖職者の中でも、位の高そうな服装だ。
「聖職者様……」
確かに、数日前にフィオを預かった聖堂の司祭へと手紙を送ったのは確かだ。
カルヴァン皇帝はあの司祭を信頼しているようだったし、この人が皇帝の使いの可能性もある。
しかし、こんな真夜中に、なんの知らせもせずに来るものだろうか?
屋敷に誰もいなかったからと、こんな辺境の草原をずっと探し歩いていたのか?
「ふえぇぇ……ふぇぇぇん」
腕の中のフィオが震え、泣き声をあげた。
育児チート能力で適温にしたのに、と思いフィオの顔を覗き込み、驚愕した。
その額に『恐怖』という文字が浮かんでいたのだ。
お腹が空いたら『空腹』、お漏らししたら『不快』、眠い時は『眠い』と、泣いている理由がわかる、便利な育児チートスキル。
しかし今フィオはーー純粋な「恐怖」で泣いているのだと、一目でわかる。
「おお、可哀想に。さあ、どうぞこちらにその子を。あやして差し上げましょう」
聖職者様は、目尻を下げて穏やかそうに話す。
しかし、その言葉には同意できない。
(なんだろうーーこの人、怖い……!)
言語化できない、本能の恐怖。
目が合っているのに、彼の瞳の奥は、空洞のように見える感覚。
寒さから泣き出しそうになっていたフィオを抱きしめ、
「≪慈しみの抱擁≫発動、≪適温管理≫オン」
子供が眠るのにちょうどいい、暖かさが腕いっぱいに広がる。
「よしよし、よく眠ってね」
本来ならば柔らかなベッドでゆっくりと寝ている時間なのに、真夜中の野外で私に抱っこされているのだから、フィオに申し訳なくも思う。
(でも、あなたを守るためだから)
アーサーさんは一人、逆恨みしている愚かな部下と戦っているのだ。私たちを守るために。
きっと、無傷で迎えに来てくれると信じよう。
私は落ち着いたフィオをしっかりと抱っこにもの中に入れ、再び立ち上がる。
挫いた足首がズキズキと痛んだが、弱音を吐いてはいられない。
蔦に足を取られぬように注意しながらしばらく進んでいたら、不意に視界が開いた。
辺境と呼ばれる所以の、見渡す限り草原の場所に出てしまったようだ。
星々が夜空いっぱいに広がり、現代日本のように、建物やビルの看板など、視界を遮るものは一つもない。
(いつの間にか山を降りてしまったんだ)
星が綺麗だ、とぼんやり眺めながらも、ここでは視界が良すぎるので、どこかに隠れてアーサーさんを待とうと思った時。
「こんな夜更けに、お嬢さん一人で歩いていたら、危ないですよ」
と声が聞こえた。
私がハッとして振り向くと、少し離れたところに人影が立っていた。
「だ、誰!?」
心臓がバクバクと鼓動し、思わず叫び声が出る。
ぼんやりとした人影はゆっくりと暗闇から姿を表すと、白いローブに身を包んだ、中年の男性だった。
「『神託の巫女』の方ですよね。私は聖職者です。
お手紙をいただき、皇帝の子をお守りするために参りました」
目を凝らしてよく見ると、胸元に十字架のロザリオを掛けており、頭には丸い帽子をかぶっている。聖職者の中でも、位の高そうな服装だ。
「聖職者様……」
確かに、数日前にフィオを預かった聖堂の司祭へと手紙を送ったのは確かだ。
カルヴァン皇帝はあの司祭を信頼しているようだったし、この人が皇帝の使いの可能性もある。
しかし、こんな真夜中に、なんの知らせもせずに来るものだろうか?
屋敷に誰もいなかったからと、こんな辺境の草原をずっと探し歩いていたのか?
「ふえぇぇ……ふぇぇぇん」
腕の中のフィオが震え、泣き声をあげた。
育児チート能力で適温にしたのに、と思いフィオの顔を覗き込み、驚愕した。
その額に『恐怖』という文字が浮かんでいたのだ。
お腹が空いたら『空腹』、お漏らししたら『不快』、眠い時は『眠い』と、泣いている理由がわかる、便利な育児チートスキル。
しかし今フィオはーー純粋な「恐怖」で泣いているのだと、一目でわかる。
「おお、可哀想に。さあ、どうぞこちらにその子を。あやして差し上げましょう」
聖職者様は、目尻を下げて穏やかそうに話す。
しかし、その言葉には同意できない。
(なんだろうーーこの人、怖い……!)
言語化できない、本能の恐怖。
目が合っているのに、彼の瞳の奥は、空洞のように見える感覚。