育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
56.狂気の枢機卿
そんな絶体絶命の状況を、打破する存在が現れた。
「エレナ、フィオ! 大丈夫か!!」
慣れ親しんだ声が草原に響く。
「アーサーさん……!」
動けない私は声の方に視線だけ向けると、素早く山道を滑り降り、受け身を取ったアーサーが、駆け寄ってくるところだった。
「遅くなった、すまない」
「血が出てます、大丈夫ですか」
「返り血だ」
どうやら、ナイフを投げてきた宰相からの追手、騎士団元部下のコンラッドは倒し、急いで私たちを迎えに来てくれたようだ。服に血がついていたが、自分のではないという。
納屋でナイフを投げられ襲われた絶体絶命の状況だったが、二手に分かれて正解だった。
ーーしかし、またも目の前に立ちはだかった、驚異的な存在。
「騎士団長アーサー・グレイフォードか……皇帝の犬が、まだのうのうと生き永らえていたとは」
苦々しく、喉の奥で吐き捨てるように言った、謎の聖職者にアーサーさんが向かい立つ。
「つくづく、神への冒涜よ」
低い声で、初老の聖職者は侮蔑を込めて吐き捨てる。
そこで初めて敵の顔を真っ正面から見たアーサーさんは、
「な、あなたは……ロレンティウス枢機卿!?」
信じられないと言わんばかりに、息を呑んでいた。
「枢機卿、って……」
「王都で一番の宗教権力者だ。大陸全土でも、五本の指に入るほどの」
金色に輝く十字架を首から下げ、純白の白いローブを来た、白髪の男性。
目の前の初老の人物は、普段ならば謁見することも叶わないような偉い人物なのだと、アーサーさんは口を引き攣らせている。
「そんな人がなんでフィオを……?」
私の至極真っ当な疑問に、アーサーさんは銀髪を風に靡かせながら答える。
「ロレンティウス枢機卿は、保守派の筆頭だ。聖職者は、身も心も神に仕えるべきだという教えは今の時代に合わないと、聖職者の中でも反発する人も多いと聞く」
と、アーサーさんが言い、そこで自分でも何かに気がついたように目を開いた。
「保守派……くそ、だから聖女ルイズ様の子を敵視するのか…‥!」
確かに、その教えを信じるものならば、聖女の子供であるフィオは、ロレンティウス枢機卿からしたら「許されない存在」なのだろう。
神の教えを守らない聖女が犯した罪を背負う、「禁忌の子」だと。
皇帝の権力を求め、王妃以外の女性との子供を排除したい、ランティス宰相。
そして、潔癖な信条を貫く、狂信的な保守派筆頭ロレンティウス枢機卿。
政治と宗教のトップ二人が手を組み、裏から皇帝の子の存在を排除しようとしていた。
「フィオを葬る」という目的が奇跡的に一致したゆえの、権力者たちの共闘だったとは。
アーサーさんと私が、その絶望的な状況を理解したところで、
「聖女は神の使いとして、傷や病を癒す治癒の力を、神から与えられた」
低く威厳のある声で、ロレンティウス枢機卿はミサで説法を説くかの如く朗々と唱える。
「奇跡の力を授かったことを感謝し、神のために、生涯身も心も仕えなければならぬのに」
そこまで言い、眉を吊り上げ口を引き攣らせ、幼きフィオを睨みつける。
「純潔を貫くべき聖女が、皇帝と姦淫し子を成すなど、あってはならぬ……!」
憎しみの波動が伝わり、大気が震えるような感覚。
地面に横たわるフィオの額には、いまだに「恐怖」と書かれている。
「エレナ、フィオ! 大丈夫か!!」
慣れ親しんだ声が草原に響く。
「アーサーさん……!」
動けない私は声の方に視線だけ向けると、素早く山道を滑り降り、受け身を取ったアーサーが、駆け寄ってくるところだった。
「遅くなった、すまない」
「血が出てます、大丈夫ですか」
「返り血だ」
どうやら、ナイフを投げてきた宰相からの追手、騎士団元部下のコンラッドは倒し、急いで私たちを迎えに来てくれたようだ。服に血がついていたが、自分のではないという。
納屋でナイフを投げられ襲われた絶体絶命の状況だったが、二手に分かれて正解だった。
ーーしかし、またも目の前に立ちはだかった、驚異的な存在。
「騎士団長アーサー・グレイフォードか……皇帝の犬が、まだのうのうと生き永らえていたとは」
苦々しく、喉の奥で吐き捨てるように言った、謎の聖職者にアーサーさんが向かい立つ。
「つくづく、神への冒涜よ」
低い声で、初老の聖職者は侮蔑を込めて吐き捨てる。
そこで初めて敵の顔を真っ正面から見たアーサーさんは、
「な、あなたは……ロレンティウス枢機卿!?」
信じられないと言わんばかりに、息を呑んでいた。
「枢機卿、って……」
「王都で一番の宗教権力者だ。大陸全土でも、五本の指に入るほどの」
金色に輝く十字架を首から下げ、純白の白いローブを来た、白髪の男性。
目の前の初老の人物は、普段ならば謁見することも叶わないような偉い人物なのだと、アーサーさんは口を引き攣らせている。
「そんな人がなんでフィオを……?」
私の至極真っ当な疑問に、アーサーさんは銀髪を風に靡かせながら答える。
「ロレンティウス枢機卿は、保守派の筆頭だ。聖職者は、身も心も神に仕えるべきだという教えは今の時代に合わないと、聖職者の中でも反発する人も多いと聞く」
と、アーサーさんが言い、そこで自分でも何かに気がついたように目を開いた。
「保守派……くそ、だから聖女ルイズ様の子を敵視するのか…‥!」
確かに、その教えを信じるものならば、聖女の子供であるフィオは、ロレンティウス枢機卿からしたら「許されない存在」なのだろう。
神の教えを守らない聖女が犯した罪を背負う、「禁忌の子」だと。
皇帝の権力を求め、王妃以外の女性との子供を排除したい、ランティス宰相。
そして、潔癖な信条を貫く、狂信的な保守派筆頭ロレンティウス枢機卿。
政治と宗教のトップ二人が手を組み、裏から皇帝の子の存在を排除しようとしていた。
「フィオを葬る」という目的が奇跡的に一致したゆえの、権力者たちの共闘だったとは。
アーサーさんと私が、その絶望的な状況を理解したところで、
「聖女は神の使いとして、傷や病を癒す治癒の力を、神から与えられた」
低く威厳のある声で、ロレンティウス枢機卿はミサで説法を説くかの如く朗々と唱える。
「奇跡の力を授かったことを感謝し、神のために、生涯身も心も仕えなければならぬのに」
そこまで言い、眉を吊り上げ口を引き攣らせ、幼きフィオを睨みつける。
「純潔を貫くべき聖女が、皇帝と姦淫し子を成すなど、あってはならぬ……!」
憎しみの波動が伝わり、大気が震えるような感覚。
地面に横たわるフィオの額には、いまだに「恐怖」と書かれている。