育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
57.紫の魔力
アーサーさんは枢機卿から私とフィオを守るように立つと、そっとフィオを抱き上げた。
その腕で優しく包み込み、髪を撫でる。
「動けるか、エレナ。フィオを頼む」
魔力が弱まったのか、ようやく動けるようになった私にフィオをそっと預け、向かいに立つロレンティウス枢機卿を睨みつける。
枢機卿だろうが、権力者だろうが関係ない、フィオを守るためだと、アーサーさんの強い意志を感じる。
「ふん。カルヴァンの犬が。一人目の子を守れなかったくせに、身の程を知れ」
秘密裏に離宮でレオを育て、聖女とレオを命からがらコンラッドから守り、大怪我をして辺境に姿を潜めていた、誉れ高き騎士団長。
なのにまた、カルヴァン皇帝の子を守ろうとしているのかと、枢機卿は嘲笑う。
「『呪毒』を飲んだ子供が、生きられるわけがないのだから」
その言葉を聞いて、アーサーさんがハッと息を呑んだ。
バルコニーに出た隙を狙い、ナイフを投擲してきたのを、身を挺して守った。
しかし、毎朝運ばれてくる物資のミルクに、毒が混ぜられていて、それを呑んだレオは顔を真っ青にして震えていた。
優秀な聖女であるルイズ様でさえ、何時間も治癒魔法をかけ続けていた。
毒に、呪いがかけられている恐ろしき『呪毒』。毒で蝕まれた肉体は治せても、呪いが解けないのだと嘆いて。
「あの呪毒入りのミルクを用意させたのは、お前か……!」
聖女でさえも解くことができない強い呪い。そんな強大な呪いを司れるのは、魔力を多く持った者だと、ずっと考えていた。
宰相の手下にそんな者がいたのか、それとも諸外国から優秀な呪術者や暗殺者を金で雇ったか。
そう思っていたが、真実は違ったらしい。
多大なる魔力を持つが故に、枢機卿まで成り上がった、宗教の権力者。
本来ならば聖女の味方であるべき男が、一番の敵に成り下がっていたのだ。
そのせいで、レオを失った。
そして、今まさにフィオの命まで奪おうとしているこの狂った枢機卿を、止めなくてはいけないと、アーサーさんは右手で腰の剣を抜く。
しかし、ロレンティウス枢機卿は、剣先を向けられても少しも怯まなかった。
うっすらと口元に笑みを浮かべたままだ。
アーサーさんが剣を構え、枢機卿に向かって鋭く踏み込んでいく。
『五感強化』のスキルを強め、少しでも相手の動きや隙を見逃さぬよう剣を振りかぶる。
しかし、真っ直ぐに駆けて行った彼が、見えない「力」に横から押し潰され、不自然な体勢で左横へと飛ばされていった。
「ぐあぁっ」
「アーサーさん!?」
対峙しているロレンティウス枢機卿は、ただゆっくり手を横に動かしただけだった。
それだけの軽微な動作で、剣を構えた元騎士団長が、無力にも吹き飛ばされるなんて。
(なんて強さなの……!)
「くくく……はは、脆弱なものよ……!」
多大なる魔力が禍々しく枢機卿の背後に蠢く。
高貴な紫色のそれは、まるで化け物の触手のようだった。
「体が……動か、ない……!」
転倒したアーサーさんがすぐに体勢を立て直そうとするも、地面に吸い付かれるように、見えない力に押さえ込まれている。
その腕で優しく包み込み、髪を撫でる。
「動けるか、エレナ。フィオを頼む」
魔力が弱まったのか、ようやく動けるようになった私にフィオをそっと預け、向かいに立つロレンティウス枢機卿を睨みつける。
枢機卿だろうが、権力者だろうが関係ない、フィオを守るためだと、アーサーさんの強い意志を感じる。
「ふん。カルヴァンの犬が。一人目の子を守れなかったくせに、身の程を知れ」
秘密裏に離宮でレオを育て、聖女とレオを命からがらコンラッドから守り、大怪我をして辺境に姿を潜めていた、誉れ高き騎士団長。
なのにまた、カルヴァン皇帝の子を守ろうとしているのかと、枢機卿は嘲笑う。
「『呪毒』を飲んだ子供が、生きられるわけがないのだから」
その言葉を聞いて、アーサーさんがハッと息を呑んだ。
バルコニーに出た隙を狙い、ナイフを投擲してきたのを、身を挺して守った。
しかし、毎朝運ばれてくる物資のミルクに、毒が混ぜられていて、それを呑んだレオは顔を真っ青にして震えていた。
優秀な聖女であるルイズ様でさえ、何時間も治癒魔法をかけ続けていた。
毒に、呪いがかけられている恐ろしき『呪毒』。毒で蝕まれた肉体は治せても、呪いが解けないのだと嘆いて。
「あの呪毒入りのミルクを用意させたのは、お前か……!」
聖女でさえも解くことができない強い呪い。そんな強大な呪いを司れるのは、魔力を多く持った者だと、ずっと考えていた。
宰相の手下にそんな者がいたのか、それとも諸外国から優秀な呪術者や暗殺者を金で雇ったか。
そう思っていたが、真実は違ったらしい。
多大なる魔力を持つが故に、枢機卿まで成り上がった、宗教の権力者。
本来ならば聖女の味方であるべき男が、一番の敵に成り下がっていたのだ。
そのせいで、レオを失った。
そして、今まさにフィオの命まで奪おうとしているこの狂った枢機卿を、止めなくてはいけないと、アーサーさんは右手で腰の剣を抜く。
しかし、ロレンティウス枢機卿は、剣先を向けられても少しも怯まなかった。
うっすらと口元に笑みを浮かべたままだ。
アーサーさんが剣を構え、枢機卿に向かって鋭く踏み込んでいく。
『五感強化』のスキルを強め、少しでも相手の動きや隙を見逃さぬよう剣を振りかぶる。
しかし、真っ直ぐに駆けて行った彼が、見えない「力」に横から押し潰され、不自然な体勢で左横へと飛ばされていった。
「ぐあぁっ」
「アーサーさん!?」
対峙しているロレンティウス枢機卿は、ただゆっくり手を横に動かしただけだった。
それだけの軽微な動作で、剣を構えた元騎士団長が、無力にも吹き飛ばされるなんて。
(なんて強さなの……!)
「くくく……はは、脆弱なものよ……!」
多大なる魔力が禍々しく枢機卿の背後に蠢く。
高貴な紫色のそれは、まるで化け物の触手のようだった。
「体が……動か、ない……!」
転倒したアーサーさんがすぐに体勢を立て直そうとするも、地面に吸い付かれるように、見えない力に押さえ込まれている。