育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

59.ままを、まもる

『まま……まま……』

小さな声が、私の鼓膜を震わせた。

聞き馴染みのある、可愛らしい声。

(フィオ、あなたの声……なの?)

私が心の中で問いかけると、ふふ、と頷く声。

枢機卿の魔力によって、空間に浮かんでいるフィオが、真っ直ぐに私を見つめていた。

『ママを……まもる……』

それは、生まれたばかりのフィオの言葉。

まだ三時間毎に夜泣きして、熱いミルクは飲めなくて、おむつも一人では代えられない。

でも、いつも一緒に過ごした私が命の危機に晒されていることは、彼にも分かったのかも知れない。

すると、フィオの体が眩く光り始めた。
キラキラと瞬き、それはまるで星の光のような、金色の輝きだった。

「なっ……!?」

地面から上半身を起こしたアーサーさんが、光を放つフィオを見て驚きの声を上げる。

枢機卿の放つ毒々しい濃い紫の魔力ではない、綺麗な澄んだ眩しい光。

魔力はその者の性質を表すと聞いたことがある。

だとしたら、フィオの魔力はこんなにも、純粋で輝いているのだと。

「忌み子め……! 『共鳴』の覚醒か……!?」

真っ暗な草原に急遽まばゆい光りが輝き、枢機卿は眩しそうに、目の前に腕を掲げ顔を逸らしている。

私の危機を察知し、救いたいという気持ちが枢機卿の魔力に『共鳴』している。

すると次の瞬間、


パリィィンッ!!


耳をつんざく破裂音が響き渡り、


「ぐわあぁ!!」


光の衝撃波が、枢機卿の体を吹き飛ばした。


目で追うのが精一杯だったが、光の束が枢機卿の体を貫く速さで飛んで行ったのだった。

枢機卿は白目を剥き、口から泡を吹いている。

どうやら、気絶をしているようだった。

私とアーサーさんに向けられていた枢機卿の魔力を、さらに強大なフィオの力で本人に跳ね返したのだろう。

それを一身に受けた枢機卿は、意識を失っている。

枢機卿が気絶したため、私の首を絞めていた魔力の縄は解除された。

地面に足をつけ、ようやく大きく息を吸う。

「けほっ、けほっ……! はぁ…」

深呼吸をし、酸素を体全身に行き渡らせる。

生まれて初めて味わった苦しさと絶望感に、本当に、死ぬかと思った。

同じく魔力から解放されたアーサーさんが、地面から立ち上がり私の背中をさすってくれる。

「フィオ、この魔力は君がやったのか……」

「あーう!」

フィオはまだ金色の光に包まれて、ふわふわと浮かんでいた。

自身の放った魔力で、凶悪な枢機卿を倒したことなど微塵にも感じない、無邪気で純粋な笑顔。

私が両手を広げ、浮かんでいるフィオに近づき、そっと抱き留める。

赤ちゃん特有の甘いミルクの香り、柔らかいほっぺに頬擦りする。

そのフィオの額には、「安堵」という文字が書かれていた。

彼は今、私とアーサーさんを救えて安心しているのだと、育児チートスキルが教えてくれている。

「聖女ルイズ様は、とても優秀で誉れ高き方だった。その血を引いているのなら、この子の力は何ら不思議ではない」

聖女様を知っているアーサーさんは、私に抱かれるフィオの髪を撫でながら、ほっと息をついた。
< 59 / 67 >

この作品をシェア

pagetop