育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

60.大好きよ

「フィオを守ろうと思った俺たちが、まさかフィオに守られるとはな」

情けないな、と眉を下げながら、それでもフィオが誇らしくてたまらないという表情で。

私はフィオの額を撫で、心から愛情が浮かんできた。

「あなたは、『忌み子』でも『禁忌の子』でも無い。私の、大切な子だよ」

そう言うとフィオはにっこりと笑いかけてくれる。

「ま、まー」

一生懸命動かす、小さな唇。


「ママ……だーいしゅき」


精一杯の愛情表現を、伝えてきてくれた。

「フィオ! そんな言葉、いつ覚えたの?」

フィオが無事でいてくれたこと、恐怖の対象が去ったこと、そして可愛い可愛い言葉を初めて伝えてくれたこと。

色んな感情が混ざり合って溢れ、私は思わずポロポロと涙を流してしまった。

そっと隣に来たアーサーさんが、私とフィオに向かって言う。

「君がいつも、フィオに向かって『大好き』って言っているから、覚えたんだろう」

その言葉に、ハッとする。

『フィオ、かわいいね、大好きだよ』

『この歌好きなの?じゃあ、もう一回歌うね』

『ふふ、おやすみ。大好きよ。また明日』

私が何回も、降り注ぐようにこの子に言っていた言葉。

子供に親の口癖がうつると言うけれど、私の言葉を、覚えてくれるなんて。

「私も、大好きだよフィオ……!」

私がぎゅっと抱きしめたら、頰に落ちる涙を、小さな手でペチペチと叩いて拭いてくれた。

温かくて尊くて、でもすぐにでも消えてしまうこの小さな命を、守ることができて本当によかった。

心からそう思った時、夜は明け、朝日が私たち三人を祝福するかのように照らしていた。


* * *



 宰相の腹心の騎士団員コンラッドも、協力者のロレンティウス枢機卿も、縄で縛り逃げられないように捕縛した。

 特に枢機卿は逃走しないか心配だったが、フィオの『共鳴』の一撃がだいぶ効いたらしく、半日以上目を覚まさなかった。

 アーサーさんはいつも果物やパンを買う近くの町へ行き、事情を話し、皇帝の元に早馬で伝令を送った。

 すると、すぐに馬に乗った騎兵が十人単位で辺境まで駆けつけ、騎士団のコンラッドと、ロレンティウス枢機卿は厳重に捕縛され、身元を確保されて王都へと連れて行かれた。

 途方もなく長い時間に感じたが、過ぎてみればたった数日間の出来事だった。

 フィオをぎゅっと抱きしめながら、もうこの子の命を脅かされることはないのだと、ほっと安堵する。

「ままー」

「うん、ミルク飲もうね」

 屋敷へと戻り、また平凡で安穏な二人の生活が始まる。


 数日後、アーサーさんが屋敷を訪ねてきた。
 
「エレナ。カルヴァン皇帝から手紙が届いた」

白い手紙を一通、ひらひらさせながらアーサーさんが笑う。

「王宮に来て欲しいそうだ。俺と君と、フィオの三人で」

「おうまー」

フィオが馬に乗るのを楽しみにしているのか、初めておうまと話していた。
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