育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

61.部下の騎士団

辺境の果てに王都から大きな馬車が到着し、私とアーサーさんとフィオの三人が乗り込む。

フィオと初めて出会い、辺境に向かう馬車の中では、これからどんな生活が始まるのか不安で仕方なかったけれど。

今はアーサーさんがいて、絆が強まったフィオがいるので不安はなかった。

「ブーブー!」

「そうだね、ブーブー早いね」

私とフィオの会話に、アーサーさんがかすかに口角を上げる。

忙しなく変わる窓の外の景色を眺めながら、まるで休みの日にドライブに行く家族のようだな、と思った。


そして王宮へと到着し、馬車を降り、頑丈な門をくぐり城の中へと入った。
王宮に来るのは初めての私が、

(まるでテーマパークのお城みたい……すごい豪華…)

と子供の頃よく言った遊園地を思い浮かべているが、アーサーさんは慣れたものでスタスタと歩いて行ってしまう。

そこに、白い制服を着た数人の騎士団員が立っていた。

アーサーさんの姿に気がつくと、全員姿勢を正して駆け寄ってくる。

「アーサー騎士団長! ご無事でしたか!」
「……ああ、心配かけたな」

同盟国への視察という長期任務のため騎士団を離れる、ということに表向きはなっていたが。

実際には秘密裏に離宮で皇帝の子、レオを育て、そして元部下であるコンラッドから狙われたため逃げ、左肩に大怪我をし、辺境暮らしをして身を隠していたのだから。

事情を知らなかった部下たちは、長期任務中に、安否不明で消息を絶ったと思っていたらしい。

宰相と枢機卿の罪が日の目を浴びた今、アーサーは皇帝の子の護衛という、大仕事をやり切ったのだと、騎士団にも周知されたのだろう。

「コンラッドが裏切ったとか……側にいたのに、気が付かずに申し訳ございません」

同期の騎士が、悔しそうに拳を握りしめながらアーサーに頭を下げて来た。

守るべき皇帝の子の暗殺に加担し、騎士団長に刃を向けたことが、信じられないと言わんばかりだ。

「いや……当時は任務に必死で、部下の心のケアまでできていなかった。上官の俺の責任だ」

アーサーさんが寂しげに言う。

「俺はその責任を取って、正式に騎士団を辞任しようと思う。元より、怪我をしたので以前のように戦えないしな」

安否不明で消息を絶っていたが、今回の皇帝への謁見を機に、騎士団長を退くつもりらしい。

部下の男性は何か思うところがありそうにしばらく黙っていたが、

「……そう言うと思ってました。アーサー騎士団長が生きて帰ってくださっただけで、俺は本望です」

騎士団長不在のまま、それでも日常が続いていた。不安と疑念が、ずっと部下たちの心にくすぶっていたのだろう。

「たまには騎士団に顔出してくださいよ。新人たちに、『五感強化』のコツを教えてください」

「そうです、指導役でぜひ!」

「ははっ、考えておくよ。では、またな」

クールでとっつきにくく見えるけれど、親しくなれば彼の温かく生真面目な性格がわかる。

騎士団の部下たちに慕われているアーサーさんの姿を見てなんだか私も誇らしくなった。

手を振り、側近の方に促されて私たちは皇帝のいる謁見の間に向かう。
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