育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜
62.罪は償うように
* * *
玉座の間に入り、赤い絨毯の上を歩いて行く。
ステンドグラスからはカラフルな光が差し込み、高い天井にはシャンデリアがついている。
歴代の皇帝と思わしき肖像画が、古くから順番に壁に掛けられており、その一番奥には、豪奢な玉座にカルヴァン皇帝が座っていた。
「エレナ・ハーリントン嬢。アーサー・グレイフォード騎士団長。
君たちに伝えたいことがあって今日はここに呼んだ」
「はっ!」
「ううー」
アーサーさんは胸に手を当て敬礼し、私は頭を下げ、フィオは元気に返事をする。
一瞬だけ、フィオの顔を見たカルヴァン皇帝の表情が緩んだが、すぐに凛とした王の顔に戻る。
「結論から言うと、ランティス宰相と、ロレンティウス枢機卿は、王族殺害未遂の件で投獄した」
皇帝の言葉に、私とアーサーさんは驚いて顔を見合わせる。
捕縛し連行されたロレンティウス枢機卿は、彼の権力ならば逃れる手はいくらでもあるだろうし、ランティス宰相は実行犯が捕まっても、自分は罪を認めないだろうと、アーサーさんも私も思っていたからだ。
「それは良い知らせです。
しかし、ランティス宰相がそんな簡単に罪を認めたのでしょうか?」
アーサーさんが、にわかにし信じがたいと言った様子で問いかける。
「……宰相は、非常に賢く慎重な男だ。
今でもずっと探っていたが、尻尾は出さなかった」
カルヴァン皇帝は肘掛けに腕を置きこめかみを押さえた状態で、私たちに声をかけてきた。
側近を使い上手く立ち回り、自分が関わった証拠は残さない、頭の切れる男だと。
「騎士団員のコンラッドがフィオの命を狙い、アーサーが倒して捕縛したようだな」
「ーーはっ」
「捕まえたコンラッドは、誰が黒幕かは吐かなかった。そう命じられていたのだろうな」
気に食わないアーサーに復讐し、自分が騎士団長になりたいからという私利私欲に塗れた男が、宰相の口車に乗って協力したが、脅されていたのか義理堅いのか、宰相のことは白状しなかったという。
「しかし、奴が持っていたこの投擲用のナイフは、特殊な銀を素材にしていてな。
同盟国である宰相の出身国の鉱山でしか採れない、非常に希少なものだった」
カルヴァン皇帝は手のひらに例のナイフを持っており、その切先を眺めながら告げる。
きらめく銀に、皇帝の黒い瞳が反射する。
「そこで、その国の鍛治職人を全て当たり、宰相がナイフを発注した手紙の証拠を見つけた。
彼は自分の護身用だと抜かしたが、数が多い……今後も、王宮裁判にかけるための証拠を集めるつもりだ。言い逃れはさせない」
自分の子供を狙われた怒りは相当なものなのだろう。
皇帝の言葉からは、深い憎しみが滲んで聞こえた。
「必ず、罪を償わせましょう」
幼い子供の、レオも、フィオも命を狙われた。権力に溺れた男、みすみす逃してはいけない。
私の言葉に、カルヴァン皇帝は深々と頷いた。
「しかし、私もロレンティウス枢機卿が絡んでいるとは思っていなかった。
狂信的な保守派で、革新派たちとの争いが絶えないとは聞いていたが、ここまでとは」
皇帝の権力を狙った宰相ならば、ドロドロの政治劇でまだ理解できるが。
宗教の権威者がここまで関わっているとは思わなかったと。
誰が皇帝になろうと、宗教のトップである枢機卿の立場は変わらない。
それゆえにーー「聖女は純潔であるべき」、「聖職者は神に支えるべき」という、狂信的な思考のみで赤子を殺すまでの行動を起こしたことが、恐ろしい。
禍々しい紫色の魔力で私の首を絞め、フィオを始末しようと張り裂けるような笑みを浮かべていたロレンティウス枢機卿を思いだし、私は身震いする。
「枢機卿が王族への殺人未遂を行ったので、教会側は混乱しているようだ。
保守派と改革派の内乱にならないよう注意せねばならないが……私は、聖堂の司祭を次の枢機卿として推していくつもりだ」
枢機卿のスキャンダルは、清廉な聖職者たちにとったらとんでもないスキャンダルだろう。
しかし、泣いているフィオを優しくあやしながら、私を「神託の巫女」だと呼んでくれ、手紙を送ってくれた、あの優しい司祭様ならば、上手くやっていってくれるだろう。
「……神に使える聖職者でも、家族を持ち、家族を愛するがこそ、隣人の幸せも祈れるのだと」
カルヴァン皇帝の言葉は、聖女ルイズ様を愛した、一人の男の人としての願いのように聞こえた。
玉座の間に入り、赤い絨毯の上を歩いて行く。
ステンドグラスからはカラフルな光が差し込み、高い天井にはシャンデリアがついている。
歴代の皇帝と思わしき肖像画が、古くから順番に壁に掛けられており、その一番奥には、豪奢な玉座にカルヴァン皇帝が座っていた。
「エレナ・ハーリントン嬢。アーサー・グレイフォード騎士団長。
君たちに伝えたいことがあって今日はここに呼んだ」
「はっ!」
「ううー」
アーサーさんは胸に手を当て敬礼し、私は頭を下げ、フィオは元気に返事をする。
一瞬だけ、フィオの顔を見たカルヴァン皇帝の表情が緩んだが、すぐに凛とした王の顔に戻る。
「結論から言うと、ランティス宰相と、ロレンティウス枢機卿は、王族殺害未遂の件で投獄した」
皇帝の言葉に、私とアーサーさんは驚いて顔を見合わせる。
捕縛し連行されたロレンティウス枢機卿は、彼の権力ならば逃れる手はいくらでもあるだろうし、ランティス宰相は実行犯が捕まっても、自分は罪を認めないだろうと、アーサーさんも私も思っていたからだ。
「それは良い知らせです。
しかし、ランティス宰相がそんな簡単に罪を認めたのでしょうか?」
アーサーさんが、にわかにし信じがたいと言った様子で問いかける。
「……宰相は、非常に賢く慎重な男だ。
今でもずっと探っていたが、尻尾は出さなかった」
カルヴァン皇帝は肘掛けに腕を置きこめかみを押さえた状態で、私たちに声をかけてきた。
側近を使い上手く立ち回り、自分が関わった証拠は残さない、頭の切れる男だと。
「騎士団員のコンラッドがフィオの命を狙い、アーサーが倒して捕縛したようだな」
「ーーはっ」
「捕まえたコンラッドは、誰が黒幕かは吐かなかった。そう命じられていたのだろうな」
気に食わないアーサーに復讐し、自分が騎士団長になりたいからという私利私欲に塗れた男が、宰相の口車に乗って協力したが、脅されていたのか義理堅いのか、宰相のことは白状しなかったという。
「しかし、奴が持っていたこの投擲用のナイフは、特殊な銀を素材にしていてな。
同盟国である宰相の出身国の鉱山でしか採れない、非常に希少なものだった」
カルヴァン皇帝は手のひらに例のナイフを持っており、その切先を眺めながら告げる。
きらめく銀に、皇帝の黒い瞳が反射する。
「そこで、その国の鍛治職人を全て当たり、宰相がナイフを発注した手紙の証拠を見つけた。
彼は自分の護身用だと抜かしたが、数が多い……今後も、王宮裁判にかけるための証拠を集めるつもりだ。言い逃れはさせない」
自分の子供を狙われた怒りは相当なものなのだろう。
皇帝の言葉からは、深い憎しみが滲んで聞こえた。
「必ず、罪を償わせましょう」
幼い子供の、レオも、フィオも命を狙われた。権力に溺れた男、みすみす逃してはいけない。
私の言葉に、カルヴァン皇帝は深々と頷いた。
「しかし、私もロレンティウス枢機卿が絡んでいるとは思っていなかった。
狂信的な保守派で、革新派たちとの争いが絶えないとは聞いていたが、ここまでとは」
皇帝の権力を狙った宰相ならば、ドロドロの政治劇でまだ理解できるが。
宗教の権威者がここまで関わっているとは思わなかったと。
誰が皇帝になろうと、宗教のトップである枢機卿の立場は変わらない。
それゆえにーー「聖女は純潔であるべき」、「聖職者は神に支えるべき」という、狂信的な思考のみで赤子を殺すまでの行動を起こしたことが、恐ろしい。
禍々しい紫色の魔力で私の首を絞め、フィオを始末しようと張り裂けるような笑みを浮かべていたロレンティウス枢機卿を思いだし、私は身震いする。
「枢機卿が王族への殺人未遂を行ったので、教会側は混乱しているようだ。
保守派と改革派の内乱にならないよう注意せねばならないが……私は、聖堂の司祭を次の枢機卿として推していくつもりだ」
枢機卿のスキャンダルは、清廉な聖職者たちにとったらとんでもないスキャンダルだろう。
しかし、泣いているフィオを優しくあやしながら、私を「神託の巫女」だと呼んでくれ、手紙を送ってくれた、あの優しい司祭様ならば、上手くやっていってくれるだろう。
「……神に使える聖職者でも、家族を持ち、家族を愛するがこそ、隣人の幸せも祈れるのだと」
カルヴァン皇帝の言葉は、聖女ルイズ様を愛した、一人の男の人としての願いのように聞こえた。