育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

64.聖女様の願い

左肩にナイフが刺さり、大怪我をしたアーサーは、自分が囮になると告げて馬で去っていった。

 小さな集落の修道院で、シスターたちが集まって、幼いレオの周りを通り囲む。

 しかし治癒魔法を使える聖女はルイズだけで、必死で魔力を与え続けていた。


「レオ、お願い、目を覚まして……」


 真っ白な顔色で、呼吸も浅い。目を閉じたまま開かないレオ。

「ルイズ、この子はもう……」

 シスターは聖女ルイズの肩を抱きしめながら、もう助からない、という言葉を飲み込む。

 しかし、我が子をそんな簡単に諦められるはずがなかった。

「……呪いを解く方法、昔本で読んだことがあるわ……」

「でも、それは禁術では? あなたの体が……!」

 シスターの静止の声を振り払い、聖女ルイズは祈るように両手を合わせる。


「私の魔力と、レオの持つ魔力、全てを使って……レオの呪いを解いて……」


 王都一の優秀な聖女が持つ魔力は、計り知れない量だ。

 しかしそれだけでも足りないと、生まれたばかりでも「共鳴」を使い、たびたび魔力の暴走をする、我が子レオの魔力も捧げるから。

 聖女と、聖女の子の魔力を全て注いで、この子にかかった呪いを解いて。


「お願い、私の命と引き換えでもいい、どうか、神様…‥!」


 まばゆい光がルイズとレオの周りを囲み、その願いを聞き入れるかのように一際輝いた。

 そして、次に目を開いた時には、

「ふぇ、ふぇぇ……」

 小さく声を上げる、レオの姿。

「良かった、レオの呪いは、解けたのね……!」

 徐々に顔色が戻り、ピンク色に色付いた頬に頬ずりをするルイズ。

 幼き命を救うのが、母として、聖女としての使命だと、心から信じて。


 感謝祭の喧騒に紛れて暗殺者に狙われたこと。

 アーサーが命をかけて二人を守って修道院に逃したが、レオが呪いにかけられたこと。

 レオの呪いが解け、その呪いをルイズが負ったことは、修道院の者たちによってすぐに皇帝の私の元にも届いた。

 宰相に違いないと、裏で証拠を掴もうとしたが、巧みに証拠を残してはいない。

 ルイズは呪いを受けて日に日に衰弱をしていったが、魔力の全てを犠牲にしたため、聖女としては一切の能力が消えた。

 自分に治癒魔法をかけられない状態のまま、お腹の中の子供はどんどん大きくなる。

 しかし、彼女はそんな自分の運命も享受していた。

 出産の数日前から、私はどうにかルイズのそばにいたいと、王宮を抜け出した。

 ルイズの手を握り、子供を産んだ瞬間に立ち会うことができた。

「ほぎゃあ! ほぎゃあ!」

「この子はフィオ……天使という意味です。私の可愛い天使……」

 真っ赤な顔をした生まれたての赤子を抱きしめ、ルイズは心から微笑んでいた。

「どうか、レオとフィオが、無事に過ごせる世界を、あなたが作って……」

 出産と呪いで衰弱しきった彼女の手を強く握ることしかできない。

「ああ、必ず作る。約束だ、ルイズ」

「愛しています、カルヴァン様……。
 元気でね、レオ、フィオ……」


 そうして、ルイズは安らかに目を閉じた。

 最後まで彼女は、私の大切な恋人であり、子供達の聖母だった。
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