育児チート令嬢、辺境で王族の赤子と元騎士団長様と家族はじめました〜子守り上手な彼に溺愛される異世界スローライフ〜

66.君のそばにいたい

* * *


 そして、馬車で辺境の屋敷へと戻ってきた。

 移動で疲れたのか、フィオもレオもぐっすり眠ってしまった。

 ゆっくりと横にさせ、ブランケットをかけると、よく似た二人の子供は、寄り添うように体を寄せ合っている。

 可愛らしい、本当に天使のような二人を見ながら、自然と笑みがこぼれる。


「レオが生きていて、本当に良かった。フィオも、傷つかなくて安心した」

「ほんと、そうですね」

 アーサーさんは砂糖入りのコーヒーを淹れてくれたので、カップを受け取る。

 蝋燭の光と、月明かりだけが差し込む、薄暗い部屋で。

 窓際の椅子に並んで座りながら、ぼんやりと二人で月を眺めていた。

 追手に追われて、山奥の納屋に潜んで、元部下の攻撃から逃げ。

 逃げた先で枢機卿に魔力で捕えられ、フィオの魔力が覚醒した。

 修道院では死んだと思っていたレオが生きていて、二人をここで育てることになった。

 なんだか、嘘みたいな数日間だったなと、コーヒーを飲み込む。

「でも、いいんですか?
 私は引き続き神託の巫女として二人の子育てをするとして、アーサーさんは王都に戻ってもいいんですよ?」

 王宮の前で、騎士団員の部下たちはアーサーさんを待ち侘びている態度だった。

 正義感が強く、『五感強化』を持つ彼は、今後の王宮には必要な人材だと思うのだが。

「もう決めたことだ」

 きっと、レオのそばにいたい、という意味なのだろうな、と私が息をつくと、



「君のそばにいたい」



 まっすぐな言葉が、私の鼓動を高鳴らせる。

 驚いて隣を見ると、銀髪のアーサーさんがこちらをまっすぐに見つめている。

 月明かりでも、彼の耳が赤くなっているのは分かった。

 私は彼のまっすぐな思いを受け止めながら、嬉しさが込み上げてきた。

(私も、同じ気持ち。ずっと前から)

 本当は、助けてもらったあの日から、ずっと彼のことが気になっていた。

 いつしか、その気持ちは確固たる好意に変わっていた。


「嬉しい、です。私、アーサーさんのこと……」


 私が嬉しくなってそう言うと、彼は手を広げて私の言葉を静止した。


「待って、俺から言わせてくれ」


男の俺から言わせてほしい、と。

銀髪が、夜の闇に溶けて神秘的に輝いている。
宝石のように澄んだ真っ赤な瞳は、いつでも私を見つめてくれていた。


「明るく真っ直ぐで、少し泣き虫で、心配になるほど純粋な君が、好きだ」


 赤子を抱っこしたまま薪を割ろうとして、途方に暮れていた、初めて会ったあの日を思い出す。

 その日からずっと、目が離せなかったと。



「これからもずっと、俺の隣にいてくれないか」


 俺が守りたい女性だと思ったのは君だけだ、と。

 この前言った言葉に変わりはないと、強い意志を感じる。


「ーーはい、もちろんです」


  私も離れたくない。ずっとあなたといたい。


「私も、アーサーさんのことが大好きです」


 きっと私も、今真っ赤な顔をしているんだろうな。

 アーサーさんは嬉しそうに微笑むと、そっと私の頬を撫でた。

 彼の温かい体温が伝わり、彼の長いまつ毛に影が落ちている。

 ゆっくりと近づいてきたので、私は目を閉じた。


 そっと触れるような、優しい口付け。
 しかし、痺れるように甘い。


 そばにいたい、隣にいてほしいと、私を求めてくれるのが心から嬉しかった。

 そんな彼と、私もずっと一緒にいたい。


「うぅーん……」


 後ろで寝ているレオが声をあげたので、私たちは慌てて唇を離した。

 起こしちゃったかな? と思うも、むにゃむにゃと寝言を言ってまた静かになったので、ただの寝返りのようだ。

 至近距離に顔がある私たちは、目を見合わせて、吹き出してしまった。

 子供の声がしたので、焦って急に離れたのだから。


「なかなか、慣れないな」

「ええ、少しずつ慣れていきましょう」


 私の言葉に、アーサーさんは笑う。


「……そうだな」


 そう言って、ついばむように、再び軽くキスをしてくる。

 抱きしめてくれるアーサーさんの胸に顔を埋めると、彼の鼓動が聞こえた。


「あの歌、教えてください。
 レオに歌ってた、アーサーさんの故郷の子守唄」


 そう言うと、少し恥ずかしそうに、穏やかな低い声で歌ってくれた。

 まるで赤子をあやすように、私の背中をトントンしながら。

「煌めく星の下……木々は眠り……日はまた登る……」


 子供を起こさないように、囁くような声。

 アーサーさんへの大好きな気持ちが、胸にあふれてくる。

 まだ始まったばかりの「家族」が、ずっと続くようにと、夜空に願いを込めて。
< 66 / 67 >

この作品をシェア

pagetop