妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
5.無能王女を慕う人々
 ルフェーヌがディエゴとの婚約を承諾した翌朝。昨日に引き続き今日も良い天気だ。穏やかな風が吹いている。
 しかしルフェーヌは天気のような気分ではなかった。
 昨夜、泣きはらした目が赤くなっている。泣いていた事に気づかれてしまう。一応化粧でごまかしたが、どうだろうか。
 ルフェーヌは身支度を済ませ、朝食を終えると輿入れのための手続きや準備に追われる。
 今日は公務の引き継ぎについて支援課慈善係へ向かう。
 向かっている途中、ルフェーヌはすれ違う職員やメイドに次々と祝福される。
 「ルフェーヌ様、おめでとうございます」
 「……ありがとう」
 少し歩くとアデルの関係者が話していた。
 「どうしてアデル様ではないの?」
 「きっと政略結婚ということだから、色々と事情がおありなのよ。あっ、ルフェーヌ様。おめでとうございます」
 ルフェーヌは会釈をしてその場を通り過ぎる。
 (もう噂が広まったのね)
 朝食をとっている時にメイドたちがルフェーヌを見て何かを話すような様子が見られた。ルフェーヌはまた何か自身のことで良くないことを言われているのかと思っていた。
 まだ何も発表をしていないが、ルフェーヌが強国パイロープ国の王太子と婚約したという噂は王室内にとどまらず、あっという間に国中へ広まり大騒ぎになっている。
 噂好きの国民が多いからだろか、今回のようにルフェーヌが魔法を使えないという事もこのように広まった。

 王室職員やメイドたちに祝福され、普段との違いに居心地が悪くなる。普段の職員やメイドたちはルフェーヌを無視はしないが素っ気ない態度だった。
 ルフェーヌは何度も祝福の声をかけられ、恐縮すると同時に強国の影響力を感じる。
 アデルの関係者やアデルを知る社交界の面々はなぜルフェーヌ王女なのかと疑問に思ったが、政略結婚という事で腑に落ちている。

 ルフェーヌは王室関係者やメイドたちに声をかけられ、普段より支援課慈善係へ向かうのに時間がかかってしまった。
 ルフェーヌは職員たちが仕事をしている階の外れにある、使われていない備品室に「支援課慈善係」と木の板に手書きで書かれた扉を開けて入る。
 「皆様、おはようござい、ま……す?」
 しんと静まっている部屋。仕事はとっくに始まっているのに、誰もいなかった。
 「あら?」
 今日は休日だっただろうか、とルフェーヌは首をかしげていると後ろからここの職員、三人の声がする。
 「ルフェーヌ様、ご婚約おめでとうございます!」
 職員三人が声をそろえて祝福する。
 その三人は、この係の責任者をしているメガネをかけた若い女性、イネス。小柄の年配女性、ロラ。学園から就業体験でやってきた学園生の男性、ロジェの三人で行っている。
 「きゃっ! あなたたちも知っていたのね」
 ルフェーヌは驚いたが、嬉しそうに祝福している三人の顔を見て安堵する。
 「この国だからねぇ。本当におめでたいよ。自分のことのように嬉しいよ」
 ロラがルフェーヌの手を取って喜んでいる。
 「ルフェーヌ様、まじすごいっす!」
 ルフェーヌは感心しているロジェに話しかける。
 「ロジェさんははパイロープ国の出身だったわね」
 「はい。留学でこの国の学園に通ってるっす。ディエゴ王太子殿下とか、やばいっす。強すぎというか、怖いというかーー。とにかく、そんな方の婚約者になるのすごいっす」
 ルフェーヌはロジェの話を聞いていると、ディエゴへの印象は自分の道を行くためなら障害をなぎ倒していく印象のようだ。イネスとロラもそう思っているようだ。
 ルフェーヌはディエゴへの印象に一抹の不安を感じる。今度ディエゴに会うのはパイロープ国へ嫁いだ日だ。
 「あら、こんな時間だわ。引き継ぎのことも話さないといけないわね」
 ルフェーヌは話しに区切りがついたので、仕事を始める。

 ルフェーヌが行っている公務の一つに慈善活動がある。主に小児病院、孤児院などの支援、訪問を中心に行っている。
 魔法を使えないルフェーヌは王女として誰かの役に立ちたいと思い、この活動を始めた。
 アデルも公務として慈善活動の予定が入るが、本人は乗り気ではない。取材がない、目立たない訪問は行きたがらず、ルフェーヌに押しつけている。
 代わりに取材の入るパーティーや各国の訪問などの公務には精力的に励んでいる。広報紙への露出が多いため、アデルはルフェーヌより国民の人気が高い。
 この部署は魔法力が弱い職員が集まっている、閑職部署だ。
 ディエゴのパイロープ国ほどではないが、ルフェーヌのスフェーン国でも個人の魔法力は重要視され、一般国民でも個人の能力として影響している。
 ルフェーヌは自分と近い距離にいるこの係の職員たちとは気兼ねなく話せる。
 ディエゴと婚約したことによって、この部署とも離れることになる。引き継ぎの事も考えながらルフェーヌは業務について話し合っていた。
< 11 / 56 >

この作品をシェア

pagetop