妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
6.ディエゴ王太子へ嫁ぐ日
 ついに輿入れの日がやってきた。ルフェーヌは起床時間前に目が覚めて部屋の窓を開ける。明るくなって間もない朝の風が吹いている。
 昨夜のルフェーヌは明日が来る事に緊張していたため、眠りが浅かった。本当にこの日がやってきてしまった。
 ぼんやりしているとメイドがやってきて出発の準備に取りかかった。

 朝早くから準備をして、昼過ぎにやっと終わった。
 ルフェーヌはライトグレーの胸元がオシャレなドレスを着ている。髪はいつものシニヨンヘアだがまとめ方がアレンジされ、控えめな髪飾りが付いている。
 ルフェーヌは少しだけオシャレになった自分に嬉しくなる。

 ルフェーヌを見送るたくさんの城の職員、城外には大勢の国民たちが集まっている。全員ルフェーヌを見送るためなのだがーー。
 強国であるパイロープ国との政略結婚はスフェーン国に多大な利益が生まれる。予想だけでもかなりの額になると算出されている。
 国が豊かになる。その気持ちを含ませながら、皆はルフェーヌの見送りに来ている。ルフェーヌもそれを察している。
 (今日でこの国とお別れなのね)
 ルフェーヌは最後になるだろう、生まれ育った王城を見上げる。不思議と何の感情も湧かない。
 ルフェーヌの関係者の中から、慈善係の三人がルフェーヌへロラ、ロジェ、イネスの順で別れの挨拶をする。
 「ルフェーヌ様がいらっしゃらないと寂しいわぁ。国を離れるのは寂しいだろうけれど、元気出して行くんだよ」
 「ディエゴ王太子殿下は、やばいっす! ……じゃない、すごいっす! だから、上手くいくことを祈ってるっす」
 「ルフェーヌ様の意志を継いで、これからの慈善係も人々の支援に力を入れていきます。お任せください」
 三人は姿勢を正し、ルフェーヌへ真っ直ぐ視線を送る。
 「ルフェーヌ様。私たちを拾っていただき、ありがとうございました」
 三人は深々とお辞儀をしてルフェーヌへ感謝を述べる。
 この職員たち三人も何かの理由で魔法が自由に使えなくなってしまった三人だ。主要で行われている支援課はあるが、それとは別に自分たちと同じ境遇の人たちを支援できたらとルフェーヌが始めた支援課慈善係だった。
 「こちらこそ。イネスさん、ロラさん、ロジェさん。お見送りありがとう。今後の事はお任せしました」
 ルフェーヌは丁寧にお辞儀を返して感謝を伝える。

 慈善係からの挨拶が終わり、三人がルフェーヌから離れるとアデルとジスランが最後の挨拶へやってきた。
 アデルは青の鮮やかで綺麗なドレスを着て、大粒のアクセサリーをたくさん身につけている。
 アデルはルフェーヌの姿を見ると驚いたような顔をする。
 「あら、お姉様。珍しく綺麗よ……」
 アデルはルフェーヌへ近づき小声で低く呟く。
 「ドレスが! 髪飾りまで付けちゃって。でも今日は特別に許してあげるわ」
 アデルにいつもの言葉を浴びせられる。それも今日で終わりかと思うと心が軽くなる。
 「ルフェーヌ。王太子殿下の機嫌を損ねないように頑張るんだよ」
 ジスランはディエゴ次第でスフェーン国の利益が変わってしまうと思っている。ジスランはルフェーヌを思って言っているが、ルフェーヌには国の利益を優先しているように聞こえてしまう。
 「ええ、分かっています」
 ルフェーヌは普段からかけられている二人の言葉を気にしなかった。
 お飾り王太子妃としての政略結婚。ルフェーヌは自身が出しゃばらない事を自負しているが、気を引き締める。

 パイロープ国からルフェーヌを迎えるために豪華な蒸気車が停車している。
 蒸気車とは炎魔法を使える御者が運転をする乗り物だ。見た目は風力車とあまり変わらない。
 風の国、スフェーン国の風力車は風の力を利用して動かしていたが、炎の国、パイロープ国では炎の力を利用して乗り物を動かしている。
 御者の炎で水を温めて水蒸気を発生させ、蒸気車を動かしている。魔法によって火を燃やせるので燃料が必要ない。
 ルフェーヌは蒸気車を背にして広報部のカメラマンに広報紙用の写真を撮られる。アデルと一緒の写真も撮られ、ルフェーヌは蒸気車に乗り込む。
 蒸気車が出発すると皆はルフェーヌへ手を振る。なかでも一番大きく手を振っていたのはアデルだ。
 「お姉様~! 国の事はご心配なく。あたくしがお姉様の分まで、それ以上に貢献致しますわ」
 アデルは白いレースのハンカチを楽しそうに振ってルフェーヌを見送る。

 蒸気車は城下町を離れ、静かな草原地帯を走っている。ルフェーヌにとって見慣れたこの景色も最後だ。
 「ふう……」
 ルフェーヌはため息を吐くと。しばらく蒸気車に揺られる。ルフェーヌはこれからの事を全く予想も想像もできなくて不安に思う。
 お飾りーー。
 出来る自身はあるが、やはり不安だ。
 ルフェーヌはいつも一人移動の時に持ち歩いている本を開く。
 「あら?」
 本には手紙が挟まれていた。
 小児病院の子供たちがくれた手紙を挟んだままだった。
 ルフェーヌはもう一度手紙を読む。
 手紙には『ルフェーヌおうじょさま、あいにきてくれてありがとう』と書かれている。最近の事なのに何ヶ月も前の事のように感じる。
 「ん?」
 一枚目の手紙の後ろにもう一枚手紙があった。ルフェーヌは手紙が二枚あった事に初めて気づく。
 二枚目に書かれている事に目を大きくして驚く。
 手紙には『おうたいしでんかとしあわせになってね!』と書かれている。
 その手紙を読んだ瞬間、ルフェーヌの中でいろいろな感情があふれ出した。
 ルフェーヌは堪えきれず、その手紙に涙を落としていった。
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