妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
12.音属性ってなに?
 翌日、ディエゴの体調は回復した。
 今朝の朝食はルフェーヌとディエゴは一緒に食堂で食事をとっていた。ルフェーヌはディエゴの元気な姿を見て安心していた。
 ルフェーヌは昼過ぎにディエゴの執務室へ呼ばれ、一人で足を運ぶ。ノックをして執務室へ入ると書物机に向かい、両肘をついて手を組んでいるディエゴが目に入る。
 ルフェーヌはディエゴへ近づき、声をかける。
 「ディエゴ様、体調が回復されてよかったです」
 ルフェーヌは嬉しそうにディエゴへ笑うと、ディエゴもつられて笑う。
 「昨日はありがとう。お前のおかげですぐに回復できた。食事の時に言ってもよかったが、二人だけで話がしたかった」
 二人だけと言われて嬉しくなり笑みが零れる。王太子として多忙だというのに時間を作ってくれたのを嬉しく思う。
 ルフェーヌはディエゴの体調について質問をする。
 「よく体調を崩されるのですか?」
 体質で体調を悪くしていたと執事が言っていた。ルフェーヌは心配になりたずねた。
 「年に数回ほどあるだろうか。炎属性の力が強いと起こりやすいようだ。副作用のようなものだろうか。父もこの体質に悩まされていたが、最近は少し落ち着いてきたようだ。普段なら数日は寝込むのだが、お前のおかげですぐに回復できた」
 ルフェーヌは静かにディエゴの話を聞いている。昨日、オレリアンも同じ事を言っていた。
 「わたしは何もしていません。きっと魔法薬が効いたのだと思います」
 「いや、お前のおかげだ。俺は魔法力が強すぎるから魔法薬の効きが弱く、数日は服用しないと体調が良くならない」
 「でも本当にわたしは何もしていません」
 ルフェーヌはそんなに感謝される心当たりがなかった。ディエゴの汗を拭き、氷のうで額を冷やしただけだ。
 「歌を歌ってくれただろ?」
 「歌ですか?」
 あんな鼻歌のどこがよかったのだろう。ルフェーヌは疑問しかない。
 ディエゴはルフェーヌが歌っている時の事を思い出しながら嬉しそうに話す。
 「音属性のお前の歌は俺を癒やしてくれる。俺を心配して早く回復するように願って歌っていたのだろう?」
 (…………?)
 ルフェーヌの思考は止まった。
 (いま何と言ったの?)
 ルフェーヌの頭は真っ白になり、自分の耳を疑った。ルフェーヌは自分を風属性の魔法を使えない無能王女と思っていた。
 今まで音属性など聞いた事もない。実際に存在するのかも知らない属性だ。ルフェーヌはそれが自分の属性だと言われても信じられない。
 「わたしが、音属性ですか?」
 ルフェーヌは少なからずディエゴが早く回復すればと思い願って歌っていたが、無意識での事だ。音属性はそのような事ができるのだろうか。
 ルフェーヌは信じられずに聞き返すと、ディエゴは表情を硬くする。
 「……驚いているという事は、知らなかったのか?」
 ルフェーヌは何度も首を振る。
 「そういう事か」
 ディエゴは口元を緩めて笑う。
 「ならば俺に頭痛や耳鳴りを起こさせていたのは、お前の意志ではないというのだな?」
 ルフェーヌが嫁いだ当初、ディエゴは頭痛や耳鳴りがすると言っていた。ルフェーヌはそれがルフェーヌ自身の仕業と言われたのを思い出す。
 「わたしにそんな事ができるの?」
 「お前が俺を嫌っていなくて安心した」
 ディエゴは安堵した笑みを浮かべる。
 「わたし、ディエゴ様を嫌っていません。一緒にいると緊張していることはありましたがーー」
 はじめの頃は緊張していた。ルフェーヌもジョゼやロジェのように何度「やばい」が頭をよぎったことか。
 「今はもう緊張していないだろ?」
 「はい」
 ルフェーヌは笑顔で返す。ディエゴもはじめの頃のように苛立つ事が少なくなった。
 ルフェーヌはどうしてもディエゴからファータの事を聞き出したくて、遠回しに質問する。
 「わたしからも質問してもよろしいですか? ディエゴ様は誰か親しくしている女性はいらっしゃいますか?」
 「ルフェーヌ」
 「……!?」
 ディエゴに自分の名前を即答されて、ルフェーヌは顔を一瞬で熱くする。
 ディエゴは聞こえるか聞こえないかの小さく低い声で呟いた。ルフェーヌはディエゴの言葉を聞き取れたが、信じられず息を飲んだ。
 「お前以外に誰がいるんだ? お前は俺の婚約者だろ。言わせるな」
 ディエゴは照れたようにルフェーヌから視線を外すが、顔を真っ赤にして照れているルフェーヌを見て口角を上げる。
 「そうですか」
 ルフェーヌはディエゴの言葉が嬉しかったが、腑に落ちなかった。自分がディエゴに愛称で呼ばれるほどの女性だとは思えなかった。
 ディエゴは書物机の椅子から立ち上がり、ルフェーヌのそばへ近寄る。
 「今からお前の予定は全てキャンセルだ。俺がお前に魔法を教えてやる。また頭痛や耳鳴りを起こされては困るからな」
 ディエゴは照れ隠しで頭痛と耳鳴りの件を言ってしまった。素直に魔法を教えるとはまだ言いづらかった。
 「わたしが、魔法をーー」
 ルフェーヌは驚きを隠せない、目を丸くした表情をする。ルフェーヌは魔法を使えないと思っていた自分が魔法を教えてもらうだなんて信じられないでいる。
 「明日、朝食が終わったら本格的に魔法を教えてやる。忘れるなよ。まずは予習だ。ほら、こっちに来い」
 ディエゴはルフェーヌの手を引っ張り、執務室を出て行こうとする。
 「今から教えてくれるのですか?」
 ルフェーヌはディエゴに引っ張られながら質問をする。
 「お前、音属性が何なのか知らないんだろ? そこから教えてやる」
 ルフェーヌはディエゴに引っ張られて執務室を出ていった。
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