妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
17.想いを旋律に乗せて(前編)
アデルから手紙をもらった翌日。
ルフェーヌは昨日ディエゴと魔法練習を行った後、ディエゴの色香の声に囁かれすぎて歩けなくなってしまった。ルフェーヌの頬は火照り、頭の中はディエゴの色香の声と甘い言葉でいっぱいになっている。
ルフェーヌはディエゴの声と言葉を浴びすぎて半ば気を失っていた。闘技場から歩けないルフェーヌはディエゴにお姫様抱っこされ、城へ戻った。
ディエゴはルフェーヌをお姫様抱っこしてルフェーヌの部屋へ向かう。その途中、メイドたちに顔を紅潮させたルフェーヌをお姫様抱っこしているのを見られるが、ディエゴは気にしなかった。
ディエゴはルフェーヌの部屋の前まで来るとルフェーヌの侍女、ジョゼが噂を聞いて慌ててやってきた。ディエゴは意識がぼんやりしているルフェーヌへジョゼに着替えを手伝ってもらい休むうようにと伝えると去っていった。
ルフェーヌはアデルからの手紙の内容をディエゴに囁かれすぎて忘れた。覚えているのはディエゴに囁かれた色香の声と甘い言葉、お姫様抱っこされたあたたかいぬくもりだった。
今日の昼食が終わり、ルフェーヌはこの後の予定はなかった。ルフェーヌとジョゼはルフェーヌの部屋にあるテーブルセットの椅子に座り、雑談をしている。その時にジョゼが昨日ルフェーヌが帰ってきた様子を話し出した。
「ええっ! わたしがディエゴ様に腰砕けにされてお姫様抱っこで連れ帰られたの!?」
昨日、城へ帰って来た事をよく覚えていないルフェーヌは何故そのような事になっているのかと驚いている。
「侍女やメイドの噂になってるよ。やるねー!」
勘違いされているが、状況的に否定できずにルフェーヌは顔を赤くする。
「頭がボーッとして何も考えられなくなって歩けなくなったのよ」
ルフェーヌは言い訳のように照れて小声で呟く。
「詳しくは聞かないよ~。二人の思い出にしておきたいだろうし。部屋の前でルフェーヌちゃんと王太子殿下にお会いしたけど、ルフェーヌちゃんが王太子殿下にしがみついてて可愛かったな~」
「恥ずかしい……」
ルフェーヌは昨日ディエゴにお姫様抱っこをされていた時の事をほのかに覚えている。
冬に暖かい暖炉で身体を温めているような、優しいぬくもりが身体に残っている。
安心するぬくもり。どこかで感じた事があるような気がする。
式典の時。ルフェーヌがディエゴに手を握ってもらった時に感じたが、もっと昔に感じたような気がする。ルフェーヌはそのぬくもりを忘れてしまっている。
「初めのうちはどうなるかと思ったけど、上手くいってるみたいで安心したよ。あの王太子殿下と仲良くできるなんてすごいよ! 劫火のインフェルノだよ?」
「はじめは緊張したけど、優しいところもあって一緒にいて楽しい方よ」
「それはルフェーヌちゃんだからだよ」
ルフェーヌは照れ笑いする。ジョゼに”ルフェーヌだから”と言われて嬉しくてくすぐったい。
「ディエゴ様と仲良くできてると思うのだけど、ディエゴ様の気持ちが分からなくて……」
ルフェーヌはディエゴとの仲は悪くないと思っている。
しかしルフェーヌは自分の気持ちに蓋をしてしまっている。そのせいもあり、ディエゴがはっきりとルフェーヌへの気持ちを言葉にして伝えないため信じ切れないでいる。
「王太子殿下のイメージ的に好きとか言わなそうだよね。女の子って、そういう言葉を言ってほしいんだよね」
ジョゼは腕を組み、眉根を寄せて悩む。
「えっ? 好き?」
ルフェーヌはディエゴが自分を好きと言うなんて、ありえないと自己肯定感の低さからそう思ってしまう。しかし好きと思ってくれていたらいいなという気持ちが同居している。
「やっぱ言ってほしいよね、好き」
ルフェーヌはジョゼの言葉に照れながら頷くが、ふと時々思い出すことを口にする。
「でもディエゴ様はファータと呼ぶ女性が好きみたいだし……」
ディエゴが体調不良で寝込んでいた時、寝言で”ファータ”と呟いていた。ファータは女性を愛称で呼んだ時のもので、親しい異性の間柄でないと愛称で呼ばない。
ルフェーヌはファータをディエゴが密かに思い続けている女性だと思っている。
「前に言っていたね。あの執事も知らないとなると、よほど極秘な関係なのか……。って、ごめん! 不安にならないで!」
極秘にするほど親密な関係なのかとルフェーヌは想像するだけで瞳を潤ませる。
「とりあえず、ファータって女性と好きと言ってもらうことだね。お姉さんに任せなさい!」
任せなさいとはどういう事だろう? とルフェーヌは首を傾げる。
「これでも学園生時代は”ジャンヌお嬢”と呼ばれて、みんなに頼られてたんだって。アタシがルフェーヌちゃんに代わって王太子殿下に焼きを入れてやるよ!」
「ええっ? ジョゼさん!?」
ジョゼはルフェーヌの制止を聞かずに部屋を出て行き、その足でディエゴの執事に取り次いでもらおうとオレリアンの元へ足を運ぶ。
オレリアンがディエゴの執務室へノックをして入り、報告をする。
「ルフェーヌの侍女が俺に話がある? 書面でよこせ」
ディエゴはオレリアンへ目線を上げずに、書物机で書類を作成している。ディエゴの小さな炎が白紙に焦げ跡を残している。
「ルフェーヌ様について、どうしてもお会いして話したいとの事です」
ディエゴは”ルフェーヌについて”と言われ、その言葉に反応して顔を上げる。
「ルフェーヌについてか。……仕方がない、時間を作ろう。いつが空いている?」
「ちょうど一時間後に十五分ほどお時間の空きがございます」
「その時間にここへ呼べ」
「かしこまりました」
オレリアンはディエゴへお辞儀をして、ジョゼへ予定を伝えるために執務室を出て行く。
一時間後。ジョゼはオレリアンに言われた通りの時間にディエゴの執務室へやってきた。ジョゼは初めて入るディエゴの執務室、というよりディエゴの威圧感に圧倒される。
(やばい……)
ジョゼは表情には出さず、心の中で呟く。
ジョゼは学園生時代、低俗貴族に意地悪される令嬢をよく助けて慕われていた。今回もそのつもりで来たが、ディエゴは格の違いがありすぎてひるんでしまう。
「何の用だ?」
ディエゴは話し出さないジョゼに低い声でたずねる。
「王太子殿下、お時間をとってもらって、どうも……ありがとうございます」
敬語が使えないジョゼはディエゴへぎこちない挨拶をする。
「用件だけ話せ」
ディエゴは同じく低い声で話す。
「それじゃあ、単刀直入に話すけど。女の子さー、好きな人から好きって言われたいんだよね」
ジョゼは前置きもなく本題を話す。
「何を言っている」
「ルフェーヌちゃんだよ! あの子、可愛い顔して”王太子殿下がわたしを好きって言ってくれないの。好きって言われたいの”って悩んでるんだよ」
「は?」
ジョゼはルフェーヌの言動を真似しているが、ディエゴにはジョゼが過剰に可愛い子ぶっているだけで、ルフェーヌの言動には見えず苛立つ。
扉付近にいたジョゼはディエゴに近づきながら話を続ける。
「それに王太子殿下にはルフェーヌちゃん以外の、別の女性もいるみたいだし」
「あ?」
ディエゴはさらに苛立つ。ジョゼにルフェーヌ以外の女性がいると言われ、苛立ちを露わにする。
「ファータだよ、ファータ! ルフェーヌちゃん、ずっと気にしているんだよね。その女性が王太子殿下の本命の女性なんじゃないかって。愛称で呼ぶ女性でしょ? ルフェーヌちゃん、傷ついてると思うんだよね」
ジョゼは書物机を挟んでディエゴの前で立ち止まる。
「なぜ傷つく?」
「そりゃ当然でしょ! ルフェーヌちゃん婚約者だよ! それにファータの話をする時、すっごい悲しそうな顔するんだよねー。夜も、寝る前にベッドでしくしく泣いてるんじゃないかな?」
ジョゼは腕を組んで、密かに泣いているルフェーヌを想像するように執務室の天井を見上げる。ディエゴも寝る前の暗い部屋で一人しくしく泣いているルフェーヌを想像する。
「なんだと?」
ディエゴはジョゼを鋭い眼光で睨みつける。ジョゼは「ひぃ!」と小さく声を上げて萎縮する。
「そういうことだから~! ルフェーヌちゃんに好きって言うのとファータとの関係解消、頼んだよ~!」
ジョゼは小走りでディエゴから逃げて執務室を出て行く。
「賑やかな方でしたね。僭越ながら私は全てを否定できないと思います」
トラブルに備えて待機していたオレリアンが静観していた感想を述べる。オレリアンはディエゴへ一言だけ伝えるとお辞儀をして執務室を出て行った。
「ふざけたことをーー」
ディエゴは大きくため息を吐いて椅子の背もたれに身体を預ける。
ルフェーヌは昨日ディエゴと魔法練習を行った後、ディエゴの色香の声に囁かれすぎて歩けなくなってしまった。ルフェーヌの頬は火照り、頭の中はディエゴの色香の声と甘い言葉でいっぱいになっている。
ルフェーヌはディエゴの声と言葉を浴びすぎて半ば気を失っていた。闘技場から歩けないルフェーヌはディエゴにお姫様抱っこされ、城へ戻った。
ディエゴはルフェーヌをお姫様抱っこしてルフェーヌの部屋へ向かう。その途中、メイドたちに顔を紅潮させたルフェーヌをお姫様抱っこしているのを見られるが、ディエゴは気にしなかった。
ディエゴはルフェーヌの部屋の前まで来るとルフェーヌの侍女、ジョゼが噂を聞いて慌ててやってきた。ディエゴは意識がぼんやりしているルフェーヌへジョゼに着替えを手伝ってもらい休むうようにと伝えると去っていった。
ルフェーヌはアデルからの手紙の内容をディエゴに囁かれすぎて忘れた。覚えているのはディエゴに囁かれた色香の声と甘い言葉、お姫様抱っこされたあたたかいぬくもりだった。
今日の昼食が終わり、ルフェーヌはこの後の予定はなかった。ルフェーヌとジョゼはルフェーヌの部屋にあるテーブルセットの椅子に座り、雑談をしている。その時にジョゼが昨日ルフェーヌが帰ってきた様子を話し出した。
「ええっ! わたしがディエゴ様に腰砕けにされてお姫様抱っこで連れ帰られたの!?」
昨日、城へ帰って来た事をよく覚えていないルフェーヌは何故そのような事になっているのかと驚いている。
「侍女やメイドの噂になってるよ。やるねー!」
勘違いされているが、状況的に否定できずにルフェーヌは顔を赤くする。
「頭がボーッとして何も考えられなくなって歩けなくなったのよ」
ルフェーヌは言い訳のように照れて小声で呟く。
「詳しくは聞かないよ~。二人の思い出にしておきたいだろうし。部屋の前でルフェーヌちゃんと王太子殿下にお会いしたけど、ルフェーヌちゃんが王太子殿下にしがみついてて可愛かったな~」
「恥ずかしい……」
ルフェーヌは昨日ディエゴにお姫様抱っこをされていた時の事をほのかに覚えている。
冬に暖かい暖炉で身体を温めているような、優しいぬくもりが身体に残っている。
安心するぬくもり。どこかで感じた事があるような気がする。
式典の時。ルフェーヌがディエゴに手を握ってもらった時に感じたが、もっと昔に感じたような気がする。ルフェーヌはそのぬくもりを忘れてしまっている。
「初めのうちはどうなるかと思ったけど、上手くいってるみたいで安心したよ。あの王太子殿下と仲良くできるなんてすごいよ! 劫火のインフェルノだよ?」
「はじめは緊張したけど、優しいところもあって一緒にいて楽しい方よ」
「それはルフェーヌちゃんだからだよ」
ルフェーヌは照れ笑いする。ジョゼに”ルフェーヌだから”と言われて嬉しくてくすぐったい。
「ディエゴ様と仲良くできてると思うのだけど、ディエゴ様の気持ちが分からなくて……」
ルフェーヌはディエゴとの仲は悪くないと思っている。
しかしルフェーヌは自分の気持ちに蓋をしてしまっている。そのせいもあり、ディエゴがはっきりとルフェーヌへの気持ちを言葉にして伝えないため信じ切れないでいる。
「王太子殿下のイメージ的に好きとか言わなそうだよね。女の子って、そういう言葉を言ってほしいんだよね」
ジョゼは腕を組み、眉根を寄せて悩む。
「えっ? 好き?」
ルフェーヌはディエゴが自分を好きと言うなんて、ありえないと自己肯定感の低さからそう思ってしまう。しかし好きと思ってくれていたらいいなという気持ちが同居している。
「やっぱ言ってほしいよね、好き」
ルフェーヌはジョゼの言葉に照れながら頷くが、ふと時々思い出すことを口にする。
「でもディエゴ様はファータと呼ぶ女性が好きみたいだし……」
ディエゴが体調不良で寝込んでいた時、寝言で”ファータ”と呟いていた。ファータは女性を愛称で呼んだ時のもので、親しい異性の間柄でないと愛称で呼ばない。
ルフェーヌはファータをディエゴが密かに思い続けている女性だと思っている。
「前に言っていたね。あの執事も知らないとなると、よほど極秘な関係なのか……。って、ごめん! 不安にならないで!」
極秘にするほど親密な関係なのかとルフェーヌは想像するだけで瞳を潤ませる。
「とりあえず、ファータって女性と好きと言ってもらうことだね。お姉さんに任せなさい!」
任せなさいとはどういう事だろう? とルフェーヌは首を傾げる。
「これでも学園生時代は”ジャンヌお嬢”と呼ばれて、みんなに頼られてたんだって。アタシがルフェーヌちゃんに代わって王太子殿下に焼きを入れてやるよ!」
「ええっ? ジョゼさん!?」
ジョゼはルフェーヌの制止を聞かずに部屋を出て行き、その足でディエゴの執事に取り次いでもらおうとオレリアンの元へ足を運ぶ。
オレリアンがディエゴの執務室へノックをして入り、報告をする。
「ルフェーヌの侍女が俺に話がある? 書面でよこせ」
ディエゴはオレリアンへ目線を上げずに、書物机で書類を作成している。ディエゴの小さな炎が白紙に焦げ跡を残している。
「ルフェーヌ様について、どうしてもお会いして話したいとの事です」
ディエゴは”ルフェーヌについて”と言われ、その言葉に反応して顔を上げる。
「ルフェーヌについてか。……仕方がない、時間を作ろう。いつが空いている?」
「ちょうど一時間後に十五分ほどお時間の空きがございます」
「その時間にここへ呼べ」
「かしこまりました」
オレリアンはディエゴへお辞儀をして、ジョゼへ予定を伝えるために執務室を出て行く。
一時間後。ジョゼはオレリアンに言われた通りの時間にディエゴの執務室へやってきた。ジョゼは初めて入るディエゴの執務室、というよりディエゴの威圧感に圧倒される。
(やばい……)
ジョゼは表情には出さず、心の中で呟く。
ジョゼは学園生時代、低俗貴族に意地悪される令嬢をよく助けて慕われていた。今回もそのつもりで来たが、ディエゴは格の違いがありすぎてひるんでしまう。
「何の用だ?」
ディエゴは話し出さないジョゼに低い声でたずねる。
「王太子殿下、お時間をとってもらって、どうも……ありがとうございます」
敬語が使えないジョゼはディエゴへぎこちない挨拶をする。
「用件だけ話せ」
ディエゴは同じく低い声で話す。
「それじゃあ、単刀直入に話すけど。女の子さー、好きな人から好きって言われたいんだよね」
ジョゼは前置きもなく本題を話す。
「何を言っている」
「ルフェーヌちゃんだよ! あの子、可愛い顔して”王太子殿下がわたしを好きって言ってくれないの。好きって言われたいの”って悩んでるんだよ」
「は?」
ジョゼはルフェーヌの言動を真似しているが、ディエゴにはジョゼが過剰に可愛い子ぶっているだけで、ルフェーヌの言動には見えず苛立つ。
扉付近にいたジョゼはディエゴに近づきながら話を続ける。
「それに王太子殿下にはルフェーヌちゃん以外の、別の女性もいるみたいだし」
「あ?」
ディエゴはさらに苛立つ。ジョゼにルフェーヌ以外の女性がいると言われ、苛立ちを露わにする。
「ファータだよ、ファータ! ルフェーヌちゃん、ずっと気にしているんだよね。その女性が王太子殿下の本命の女性なんじゃないかって。愛称で呼ぶ女性でしょ? ルフェーヌちゃん、傷ついてると思うんだよね」
ジョゼは書物机を挟んでディエゴの前で立ち止まる。
「なぜ傷つく?」
「そりゃ当然でしょ! ルフェーヌちゃん婚約者だよ! それにファータの話をする時、すっごい悲しそうな顔するんだよねー。夜も、寝る前にベッドでしくしく泣いてるんじゃないかな?」
ジョゼは腕を組んで、密かに泣いているルフェーヌを想像するように執務室の天井を見上げる。ディエゴも寝る前の暗い部屋で一人しくしく泣いているルフェーヌを想像する。
「なんだと?」
ディエゴはジョゼを鋭い眼光で睨みつける。ジョゼは「ひぃ!」と小さく声を上げて萎縮する。
「そういうことだから~! ルフェーヌちゃんに好きって言うのとファータとの関係解消、頼んだよ~!」
ジョゼは小走りでディエゴから逃げて執務室を出て行く。
「賑やかな方でしたね。僭越ながら私は全てを否定できないと思います」
トラブルに備えて待機していたオレリアンが静観していた感想を述べる。オレリアンはディエゴへ一言だけ伝えるとお辞儀をして執務室を出て行った。
「ふざけたことをーー」
ディエゴは大きくため息を吐いて椅子の背もたれに身体を預ける。