妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
19.想いを旋律に乗せて(後編)
ディエゴはルフェーヌと出会った翌日からルフェーヌを自分の婚約者にするため、さらに魔法の勉強を始めた。
炎の国パイロープ国は魔法力を重視する国で、その力が強いほど地位や名誉などが与えられる。
王族の中でも生まれつき魔法力が強いディエゴは自分が持っている炎属性の力を高め、極めていった。
魔法書を何十回も読み込み、魔法の練習をした。魔法の名人を城に呼び、難しい魔法も練習をして習得した。
城に古い魔法書があると聞くと、蔵書室でその書物を探し、炎魔法について記載されている内容を全て覚えた。書物に書かれている他の属性の記載も参考にしようと目を通した。
その時、ディエゴは式典で出会ったルフェーヌは音属性ではないかという事に気づいた。今も心惹かれる歌声を不思議に思っていた。
あの美しい歌声を、ルフェーヌを自分だけのものにできたらーー。
そんなことをずっと思っていた。時が経つにつれ、その思いは成長と共に変化していった。
心癒やされる女性が王妃としてそばにいれば、魔法力が強いために起きる副作用の苛立ちを抑えらる。苛立ちを抑えると共に魔法力も抑えてしまう魔法薬を飲まずに済む。
ルフェーヌがいれば何も障害がなく、国王として一人で国を治められる。ルフェーヌは自分に必要な女性と思っていた。
ディエゴは子供の頃の純粋な気持ちを忘れ、現在の利己的な考えが正しいと思い込んでしまった。しかしその考えはルフェーヌと過ごすうちに書き換えられていった。
ディエゴは自分が一人の女性をこんなに深く愛するとは思わなかった。成長と共に無意識にプライドが邪魔をしてその気持ちをすり替えていた。
(俺は、はじめからルフェーヌを……)
ここまでしてルフェーヌを手に入れたかった理由に気づくと、ディエゴの中で全てが腑に落ちる。
一番の疑問は初夜を逃げられた事だ。
女性ならば誰もが憧れるディエゴの初夜を逃げた。ディエゴは誰もが自分を受け入れるはずと思っていた。
ディエゴは逃げられた怒りより、初夜という大事な日をルフェーヌに逃げられたという虚無感に襲われる。ディエゴはあの夜、一睡もできなかった。
ディエゴはなぜこんなに落ち込むのか分からなかったが、ルフェーヌと一緒に過ごすうちに十年前に着火した火種を思い出した。
美しい旋律と歌声がディエゴを癒やし舞踏場で響いている。
ディエゴはピアノを奏でるルフェーヌの横顔を見つめる。自分を想いながら奏でる旋律と歌に心を奪われる。
あの時と同じだ。十年前に聞いた歌にも心を奪われた。ディエゴは少年の頃の気持ちと今が繋がる。
ディエゴはルフェーヌの髪を優しくかき上げ、頬に触れる。ルフェーヌは身体を小さく反応させる。ルフェーヌはまたディエゴがからかっていると思い、耐えてピアノを弾き歌を歌い続ける。
(俺は最初からルフェーヌに惚れていたのだな)
ディエゴは少年だった頃の、ルフェーヌと出会った時の純粋な気持ちを思い出した。
少年の頃、自然の中で楽しそうに歌うルフェーヌが好きだった。ディエゴへ笑顔を向けるルフェーヌは美しく可愛らしい妖精のようだった。
ディエゴは少年の頃、口約束だがルフェーヌを半ば強引に婚約者にした自分に納得する。
ディエゴはルフェーヌ自身を好きな事に気づくと、ディエゴの中の炎は燃え上がり、勢いは止まらない。
ディエゴはピアノを弾きながら歌うルフェーヌを熱を帯びた炎の様な瞳で見つめる。
少女だったあの時より大人びたルフェーヌ。しかしディエゴは少女のような反応を見せるルフェーヌから目が離せなくて愛おしく思う。
妖精、ファータ。あの時と変わらない可愛さの中に王女としての気品と美しさを兼ね備え、自身の可愛らしさをより魅力的にしている。
ディエゴはルフェーヌの耳元に唇を近づけて愛おしく囁く。
「俺の可愛い妖精、ルフェーヌ」
ディエゴは堪らずルフェーヌの薄紅色の頬に唇を落とす。
「きゃあぁっ……!」
ルフェーヌは驚いて声にならない甘い悲鳴を上げて再び演奏を乱した。頬に触れた唇の音はルフェーヌが乱した演奏の音で消えた。
ルフェーヌは照れて紅潮しきったリンゴのような赤い顔でディエゴを睨むが全く怖くない。
「可愛いやつ。もう一回してやろうか? 今度は違うところに」
ディエゴは頬に手を添えている親指でルフェーヌの唇に触れる。ルフェーヌは薄紅色の熱を帯びた瞳でディエゴを見つめて固まっている。丸く大きい瞳の瞳孔が開き、細かい火の粉を散りばめたように輝いて見える。
ルフェーヌは期待しているのか、また緊張と羞恥で固まっているのか。ルフェーヌはディエゴを見つめたまま、瞳を輝かせるばかりで動かない。
「またからかいすぎたか? 俺の気が済むまで弾いて歌ってくれ」
ディエゴは優しい声でルフェーヌに言うと、キスをする代わりにルフェーヌのプラチナブロンド中にエメラルドグリーンが混じる美しく輝く髪を指で弄んでいる。
ルフェーヌは髪の毛を弄られているのが気になるが、唇にキスをされるのを無意識に期待していた事に気づくと、再びピアノを弾き始める。
ルフェーヌの旋律がまた少し変わる。穏やかな主旋律はそのままに低音が混じり、扇情的な高揚感を奏でている。
ディエゴはルフェーヌの髪の毛を弄りながらルフェーヌが奏でる旋律と歌声に耳を傾けている。ルフェーヌはその様子を横目に見ながらピアノを弾き、歌を歌っている。
(ディエゴ様……)
ルフェーヌ自身も旋律が変わっている事に気づいている。しかし先程と同じ旋律に戻す事はできなかった。
ルフェーヌの心の奥底では答えは出ているが、自信のないルフェーヌは自分からディエゴを求められない。ディエゴに断られるのが怖かった。
その気持ちが心の奥底で働き、旋律に表れている。
密着して無理矢理ひとつの椅子に座っているルフェーヌとディエゴ。
ルフェーヌの肩や太腿から伝わるディエゴの熱い体温。ルフェーヌの唇に触れられた時に感じた男性らしい太めの長い指をしたディエゴの優しい指。ルフェーヌの頬に落とされた、ディエゴのしっとりとした柔らかい唇。
ルフェーヌはその感触が逃げ出した初夜と重なる。それをあの時に感じていたら、どうなっていたのだろう。経験もなく知識も少ないルフェーヌはその先を想像できずに同じ事を何度も頭の中で巡らせながらピアノの弾き歌っている。
ルフェーヌは初夜を逃げて後悔している。もし、もう一度初夜をして欲しいと伝えればしてくれるのだろうかーー。
ルフェーヌにはまだ伝える勇気がなく、ディエゴの気が済むまでピアノを弾き歌い続けた。
炎の国パイロープ国は魔法力を重視する国で、その力が強いほど地位や名誉などが与えられる。
王族の中でも生まれつき魔法力が強いディエゴは自分が持っている炎属性の力を高め、極めていった。
魔法書を何十回も読み込み、魔法の練習をした。魔法の名人を城に呼び、難しい魔法も練習をして習得した。
城に古い魔法書があると聞くと、蔵書室でその書物を探し、炎魔法について記載されている内容を全て覚えた。書物に書かれている他の属性の記載も参考にしようと目を通した。
その時、ディエゴは式典で出会ったルフェーヌは音属性ではないかという事に気づいた。今も心惹かれる歌声を不思議に思っていた。
あの美しい歌声を、ルフェーヌを自分だけのものにできたらーー。
そんなことをずっと思っていた。時が経つにつれ、その思いは成長と共に変化していった。
心癒やされる女性が王妃としてそばにいれば、魔法力が強いために起きる副作用の苛立ちを抑えらる。苛立ちを抑えると共に魔法力も抑えてしまう魔法薬を飲まずに済む。
ルフェーヌがいれば何も障害がなく、国王として一人で国を治められる。ルフェーヌは自分に必要な女性と思っていた。
ディエゴは子供の頃の純粋な気持ちを忘れ、現在の利己的な考えが正しいと思い込んでしまった。しかしその考えはルフェーヌと過ごすうちに書き換えられていった。
ディエゴは自分が一人の女性をこんなに深く愛するとは思わなかった。成長と共に無意識にプライドが邪魔をしてその気持ちをすり替えていた。
(俺は、はじめからルフェーヌを……)
ここまでしてルフェーヌを手に入れたかった理由に気づくと、ディエゴの中で全てが腑に落ちる。
一番の疑問は初夜を逃げられた事だ。
女性ならば誰もが憧れるディエゴの初夜を逃げた。ディエゴは誰もが自分を受け入れるはずと思っていた。
ディエゴは逃げられた怒りより、初夜という大事な日をルフェーヌに逃げられたという虚無感に襲われる。ディエゴはあの夜、一睡もできなかった。
ディエゴはなぜこんなに落ち込むのか分からなかったが、ルフェーヌと一緒に過ごすうちに十年前に着火した火種を思い出した。
美しい旋律と歌声がディエゴを癒やし舞踏場で響いている。
ディエゴはピアノを奏でるルフェーヌの横顔を見つめる。自分を想いながら奏でる旋律と歌に心を奪われる。
あの時と同じだ。十年前に聞いた歌にも心を奪われた。ディエゴは少年の頃の気持ちと今が繋がる。
ディエゴはルフェーヌの髪を優しくかき上げ、頬に触れる。ルフェーヌは身体を小さく反応させる。ルフェーヌはまたディエゴがからかっていると思い、耐えてピアノを弾き歌を歌い続ける。
(俺は最初からルフェーヌに惚れていたのだな)
ディエゴは少年だった頃の、ルフェーヌと出会った時の純粋な気持ちを思い出した。
少年の頃、自然の中で楽しそうに歌うルフェーヌが好きだった。ディエゴへ笑顔を向けるルフェーヌは美しく可愛らしい妖精のようだった。
ディエゴは少年の頃、口約束だがルフェーヌを半ば強引に婚約者にした自分に納得する。
ディエゴはルフェーヌ自身を好きな事に気づくと、ディエゴの中の炎は燃え上がり、勢いは止まらない。
ディエゴはピアノを弾きながら歌うルフェーヌを熱を帯びた炎の様な瞳で見つめる。
少女だったあの時より大人びたルフェーヌ。しかしディエゴは少女のような反応を見せるルフェーヌから目が離せなくて愛おしく思う。
妖精、ファータ。あの時と変わらない可愛さの中に王女としての気品と美しさを兼ね備え、自身の可愛らしさをより魅力的にしている。
ディエゴはルフェーヌの耳元に唇を近づけて愛おしく囁く。
「俺の可愛い妖精、ルフェーヌ」
ディエゴは堪らずルフェーヌの薄紅色の頬に唇を落とす。
「きゃあぁっ……!」
ルフェーヌは驚いて声にならない甘い悲鳴を上げて再び演奏を乱した。頬に触れた唇の音はルフェーヌが乱した演奏の音で消えた。
ルフェーヌは照れて紅潮しきったリンゴのような赤い顔でディエゴを睨むが全く怖くない。
「可愛いやつ。もう一回してやろうか? 今度は違うところに」
ディエゴは頬に手を添えている親指でルフェーヌの唇に触れる。ルフェーヌは薄紅色の熱を帯びた瞳でディエゴを見つめて固まっている。丸く大きい瞳の瞳孔が開き、細かい火の粉を散りばめたように輝いて見える。
ルフェーヌは期待しているのか、また緊張と羞恥で固まっているのか。ルフェーヌはディエゴを見つめたまま、瞳を輝かせるばかりで動かない。
「またからかいすぎたか? 俺の気が済むまで弾いて歌ってくれ」
ディエゴは優しい声でルフェーヌに言うと、キスをする代わりにルフェーヌのプラチナブロンド中にエメラルドグリーンが混じる美しく輝く髪を指で弄んでいる。
ルフェーヌは髪の毛を弄られているのが気になるが、唇にキスをされるのを無意識に期待していた事に気づくと、再びピアノを弾き始める。
ルフェーヌの旋律がまた少し変わる。穏やかな主旋律はそのままに低音が混じり、扇情的な高揚感を奏でている。
ディエゴはルフェーヌの髪の毛を弄りながらルフェーヌが奏でる旋律と歌声に耳を傾けている。ルフェーヌはその様子を横目に見ながらピアノを弾き、歌を歌っている。
(ディエゴ様……)
ルフェーヌ自身も旋律が変わっている事に気づいている。しかし先程と同じ旋律に戻す事はできなかった。
ルフェーヌの心の奥底では答えは出ているが、自信のないルフェーヌは自分からディエゴを求められない。ディエゴに断られるのが怖かった。
その気持ちが心の奥底で働き、旋律に表れている。
密着して無理矢理ひとつの椅子に座っているルフェーヌとディエゴ。
ルフェーヌの肩や太腿から伝わるディエゴの熱い体温。ルフェーヌの唇に触れられた時に感じた男性らしい太めの長い指をしたディエゴの優しい指。ルフェーヌの頬に落とされた、ディエゴのしっとりとした柔らかい唇。
ルフェーヌはその感触が逃げ出した初夜と重なる。それをあの時に感じていたら、どうなっていたのだろう。経験もなく知識も少ないルフェーヌはその先を想像できずに同じ事を何度も頭の中で巡らせながらピアノの弾き歌っている。
ルフェーヌは初夜を逃げて後悔している。もし、もう一度初夜をして欲しいと伝えればしてくれるのだろうかーー。
ルフェーヌにはまだ伝える勇気がなく、ディエゴの気が済むまでピアノを弾き歌い続けた。