妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
26.過去への決別と自己利益の果てに
アデルが事件を起こしてから一週間以上が経った。パイロープ国の暑い日差しが塔の中へ存分に差し込んでいる。アデルは秋だというのに塔の中は蒸し暑く、夜でも暑い城の塔で幽閉されている。
アデルが入っている部屋は倉庫のように古いものが雑然と置かれている。ベッドや椅子などの家具はない。アデルは床に座って顔を伏せている。
秋だというのにパイロープ国では記録的な夏の暑さが続いている。
アデルはパイロープ国の暑さに耐えられずにいる。拭っても汗がしたたり落ちてくる。美しく施された化粧は幽閉されてすぐに汗で崩れ落ちてしまった。アデルは水も満足にもらえず、体力を消耗してぐったりしている。
アデルは右の手のひらを眺める。手のひらには火傷のような小さい痕が付いている。アデルはここへ幽閉されて初めてこの痕に気づいた。アデルは手のひらに魔法陣を浮かび上がらせようとするが、できない。手のひらには火傷のような小さな痕があり、それはちょうど魔法陣が欠けるように痕が付いている。アデルはそれせいで魔法を使えなくなってしまったと思っている。
時計のない部屋で何度目かの太陽が落ちようとしている。塔の古い扉が開かれ、アデルの元へディエゴとオレリアンがやってくる。ディエゴは凍てつくような視線でアデルを見下ろす。
「あたくしをどうする気?」
アデルは床に座ったまま顔だけを向けて挑発的にディエゴへたずねる。ディエゴは感情を極力抑えた冷徹な声で宣告する。
「死刑」
「!」
アデルは目を見開き、息を飲む。
「そんなこと、許されるはずがないわ!」
アデルは焦って反論する。
「お前は許されない事をした。アルカイオスで争いを起こし、王太子であるこの俺の魔法力を奪った。一番許せないのは俺の愛するルフェーヌの命を奪おうとした事だ。万死に値する」
アデルはディエゴの魔法力を奪い、王族としての尊厳を傷つけた、魔法傷害罪と名誉毀損罪。ルフェーヌを崖へ転落させた、殺人未遂罪。それに加え、アルカイオスでの争いを起こした罪が科せられる。アルカイオスでの争い事は重罪だ。罪がアデルに重くのしかかる。
ディエゴは戸惑っているアデルをさらに追い込む。
「お前には特別に教えてやる。俺は今この国の国王より権限がある。俺はこの国で一番の権力者だ」
ディエゴはルフェーヌを婚約者にするために父王である国王へ決闘を申し込み、それに勝利した。
「それが何なの?」
ディエゴが何を言いたいのか腑に落ちないアデルは聞き返す。
「誰も俺の決定は覆せない。お前を死刑にすることは容易いことだ」
アデルは自分の死刑が現実味を帯びてさらに焦る。
「そんなこと、お父様が黙ってないわ!」
アデルは王女だ。罪を犯したとはいえ、ディエゴが他国の王女を処刑するとなると、戦争になっても不思議ではない。
「お前の国は魔法戦闘力の強国として名高い俺の国に宣戦布告をするのか? お前の自然豊かな国が火の海になるだけだぞ」
パイロープ国は兵の数が多く、それに加えて魔法戦闘力が高い特殊部隊が炎属性に限らず多く存在している。スフェーン国に勝ち目はない。
「誰もお前を助けることはしない」
ディエゴは感情のない冷徹な声でアデルを見下ろして宣言する。
アデルはディエゴの言葉を聞き、血の気が引いていく。自分は処刑されてしまうのだろうかとアデルの頭が真っ白になる。アデルはあんなに暑かったのに、今は震えるほど寒いと感じる。
ディエゴは顔色を変えたアデルを気にする事なく、話を続ける。
「おい、一ヶ月後に何があるか知っているか? 世界中が祝福するんだ、知っているだろ」
一ヶ月後にはルフェーヌとディエゴの結婚式が行われる。アデルは知っているが、ディエゴから顔を逸らして答えない。
「優しいルフェーヌがお前を心配しているんだ。この意味、分かるか?」
アデルは顔を逸らしたまま何も話さない。ディエゴはアデルへ処罰を宣告する。
「アデル、お前を罰金刑に処する」
「罰金ですって?」
アデルは意外な処罰で肩透かしを食らう。
「金額は十一億」
「はあ!?」
アデルは反発の声を上げる。
「パイロープ国の金額で11億だ。お前の国ではいくらになるだろうな。もちろんお前の個人資産で払ってもらう」
アデルはさらに頭が真っ白になる。知っているはずなのに、11億の後ろにゼロが何個付くかすぐに分からなかった。パイロープ国の通貨価値は高く、簡単に払える金額ではない。
「支払うのならば、ここから出して国へ返してやる」
ディエゴのそばで仕えているオレリアンは書類が挟まれているレザーを使用した黒いハードファイルをアデル近くの床へ置く。
「この書類に署名をしろ」
アデルは戸惑う。大金を払いたくない。サインをしたくない。しかし、しなければここから出られない。処刑されてしまうかもしれない。アデルは頭の中で葛藤する。
アデルは葛藤ののち、震える手で署名をする。
「ルフェーヌに助けられたな」
アデルの署名が終わると、ディエゴは部屋から出て行こうとする。
「待ちなさいよ! アンタ、お姉様の何なの? お姉様はお飾りのはずでしょ? アンタも自分のイメージのためにお姉様を利用しているのね!」
アデルはルフェーヌとディエゴが愛し合っている事を知らない。ディエゴは呆れたようにアデルの発言を鼻で笑う。
「俺は愛するルフェーヌのためなら何でもする男だ」
ディエゴはきびすを返して部屋を出て行く。オレリアンはアデルを帰国の手続きのため、別室へ案内をする。
アデルは唇を噛み、悔しい気持ちを露わにする。
アデルが入っている部屋は倉庫のように古いものが雑然と置かれている。ベッドや椅子などの家具はない。アデルは床に座って顔を伏せている。
秋だというのにパイロープ国では記録的な夏の暑さが続いている。
アデルはパイロープ国の暑さに耐えられずにいる。拭っても汗がしたたり落ちてくる。美しく施された化粧は幽閉されてすぐに汗で崩れ落ちてしまった。アデルは水も満足にもらえず、体力を消耗してぐったりしている。
アデルは右の手のひらを眺める。手のひらには火傷のような小さい痕が付いている。アデルはここへ幽閉されて初めてこの痕に気づいた。アデルは手のひらに魔法陣を浮かび上がらせようとするが、できない。手のひらには火傷のような小さな痕があり、それはちょうど魔法陣が欠けるように痕が付いている。アデルはそれせいで魔法を使えなくなってしまったと思っている。
時計のない部屋で何度目かの太陽が落ちようとしている。塔の古い扉が開かれ、アデルの元へディエゴとオレリアンがやってくる。ディエゴは凍てつくような視線でアデルを見下ろす。
「あたくしをどうする気?」
アデルは床に座ったまま顔だけを向けて挑発的にディエゴへたずねる。ディエゴは感情を極力抑えた冷徹な声で宣告する。
「死刑」
「!」
アデルは目を見開き、息を飲む。
「そんなこと、許されるはずがないわ!」
アデルは焦って反論する。
「お前は許されない事をした。アルカイオスで争いを起こし、王太子であるこの俺の魔法力を奪った。一番許せないのは俺の愛するルフェーヌの命を奪おうとした事だ。万死に値する」
アデルはディエゴの魔法力を奪い、王族としての尊厳を傷つけた、魔法傷害罪と名誉毀損罪。ルフェーヌを崖へ転落させた、殺人未遂罪。それに加え、アルカイオスでの争いを起こした罪が科せられる。アルカイオスでの争い事は重罪だ。罪がアデルに重くのしかかる。
ディエゴは戸惑っているアデルをさらに追い込む。
「お前には特別に教えてやる。俺は今この国の国王より権限がある。俺はこの国で一番の権力者だ」
ディエゴはルフェーヌを婚約者にするために父王である国王へ決闘を申し込み、それに勝利した。
「それが何なの?」
ディエゴが何を言いたいのか腑に落ちないアデルは聞き返す。
「誰も俺の決定は覆せない。お前を死刑にすることは容易いことだ」
アデルは自分の死刑が現実味を帯びてさらに焦る。
「そんなこと、お父様が黙ってないわ!」
アデルは王女だ。罪を犯したとはいえ、ディエゴが他国の王女を処刑するとなると、戦争になっても不思議ではない。
「お前の国は魔法戦闘力の強国として名高い俺の国に宣戦布告をするのか? お前の自然豊かな国が火の海になるだけだぞ」
パイロープ国は兵の数が多く、それに加えて魔法戦闘力が高い特殊部隊が炎属性に限らず多く存在している。スフェーン国に勝ち目はない。
「誰もお前を助けることはしない」
ディエゴは感情のない冷徹な声でアデルを見下ろして宣言する。
アデルはディエゴの言葉を聞き、血の気が引いていく。自分は処刑されてしまうのだろうかとアデルの頭が真っ白になる。アデルはあんなに暑かったのに、今は震えるほど寒いと感じる。
ディエゴは顔色を変えたアデルを気にする事なく、話を続ける。
「おい、一ヶ月後に何があるか知っているか? 世界中が祝福するんだ、知っているだろ」
一ヶ月後にはルフェーヌとディエゴの結婚式が行われる。アデルは知っているが、ディエゴから顔を逸らして答えない。
「優しいルフェーヌがお前を心配しているんだ。この意味、分かるか?」
アデルは顔を逸らしたまま何も話さない。ディエゴはアデルへ処罰を宣告する。
「アデル、お前を罰金刑に処する」
「罰金ですって?」
アデルは意外な処罰で肩透かしを食らう。
「金額は十一億」
「はあ!?」
アデルは反発の声を上げる。
「パイロープ国の金額で11億だ。お前の国ではいくらになるだろうな。もちろんお前の個人資産で払ってもらう」
アデルはさらに頭が真っ白になる。知っているはずなのに、11億の後ろにゼロが何個付くかすぐに分からなかった。パイロープ国の通貨価値は高く、簡単に払える金額ではない。
「支払うのならば、ここから出して国へ返してやる」
ディエゴのそばで仕えているオレリアンは書類が挟まれているレザーを使用した黒いハードファイルをアデル近くの床へ置く。
「この書類に署名をしろ」
アデルは戸惑う。大金を払いたくない。サインをしたくない。しかし、しなければここから出られない。処刑されてしまうかもしれない。アデルは頭の中で葛藤する。
アデルは葛藤ののち、震える手で署名をする。
「ルフェーヌに助けられたな」
アデルの署名が終わると、ディエゴは部屋から出て行こうとする。
「待ちなさいよ! アンタ、お姉様の何なの? お姉様はお飾りのはずでしょ? アンタも自分のイメージのためにお姉様を利用しているのね!」
アデルはルフェーヌとディエゴが愛し合っている事を知らない。ディエゴは呆れたようにアデルの発言を鼻で笑う。
「俺は愛するルフェーヌのためなら何でもする男だ」
ディエゴはきびすを返して部屋を出て行く。オレリアンはアデルを帰国の手続きのため、別室へ案内をする。
アデルは唇を噛み、悔しい気持ちを露わにする。