妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
3.未来の王太子妃はだれ?
式典から一ヶ月が経った。スフェーン国は少しずつ暖かさが増していき、穏やかな日々が続いている。風は弱いが時折突風のような風が吹いている。
今日はルフェーヌたちの父ジスランが懇意にしている侯爵家の先代当主の長寿パーティーが開かれる。ルフェーヌとアデルも幼少期から世話になっており、パーティーに招待された。
ジスランは予定があるとの事で、先にルフェーヌとアデルがパーティー会場となっている侯爵家に風力車で向かっている。
移動中、アデルはいつものように風力車の中でルフェーヌへ一方的に話をしている。
「お姉様、あたくしよね? そうよね、絶対そうと言って!」
アデルははしゃいでいる。侯爵家のパーティーに浮かれているのではない。
数日前、パイロープ国の王太子であるディエゴが婚約者を決めたと風の噂が流れてきた。誰とはまだ分からないが、心当たりのある各国の王女やパイロープ国の令嬢たちは自分ではないかとはしゃいでいる。アデルもその一人だ。ルフェーヌはいつものように表情を暗くしている。
「つれない態度でしたけど、あたくしの事を想っていてくれたのよね」
ルフェーヌは視線を窓の外へ移す。春の美しい草原から気持ちの良い風が入ってくる。
今日もルフェーヌはアデルとは違い、落ち着いた色のドレスに後ろで髪をまとめてシニヨンヘアにしている。
ルフェーヌは窓の外を眺め、春風で前髪を揺らしながらディエゴの婚約者の事を考えている。
(ディエゴ様に婚約者ーー。どのような方かしら)
ルフェーヌはディエゴの横に立っている女性を想像する。
温和で優しそうな女性。元気で活発な明るい女性。つかみ所がない妖艶な女性。
ルフェーヌは全くイメージが着かずに想像をやめる。ディエゴがどのような女性が好みかも知らない。
ルフェーヌは一ヶ月前の事を思い出す。ディエゴが言っていた噂を聞かせてやるとはこの事だったのだろうか。
ルフェーヌはディエゴの意図が分からず、腑に落ちない噂を無意識に考えてしまっている。
しばらくすると広大の敷地に建つ、侯爵家の立派な邸宅が見えてきた。風力車を降りるとルフェーヌとアデルは使用人に庭園へ案内される。
庭園にはゲストが多数集まっており、パーティーが始まっている。
パーティーは手入れが行き届いた青々とする芝生の美しい庭園で行われている。庭園には多くの彫刻が配置されており、先代当主が好んで集めたものだ。
ルフェーヌとアデルは庭園に用意されたテーブルセットでお茶を飲みながら先代当主と談笑をする。
先代当主は長寿になっても快活で行動的な人で、長寿祝いに各国を旅行した事を二人に話している。
炎の国であるパイロープ国にも訪れたようで、パイロープ国の美術館を見学したのが印象的だと言っている。その筋の著名人がのこした炎の精霊像のレプリカを譲ってもらったという。
「彫刻の造形美に目がなくてですね、なかでも精霊像を気に入って彫刻を眺めては一日を終える事もあるのですよ」
精霊像のレプリカは庭園の二カ所に置かれている。一つは風の精霊、二つ目は炎の精霊の彫刻だ。
精霊像は美しい女性の姿をしており、先代当主は幻想的な美しさを気に入っているようだ。
「そうなのですね。あたくし、先日のエフハリスト式典でディエゴ王太子殿下へご挨拶をしましたの。とても素敵な方でしたわ」
ルフェーヌはアデルへ黙って視線を動かす。アデルは式典の帰り、風力車の中でディエゴの悪口を言っていたのを忘れたのだろうか。
「そうですか。若い方同士、交流を持たれるのは良い事ですな」
先代当主はニコニコと楽しそうにアデルの話を聞いている。
「ディエゴ王太子殿下が婚約者をお決めになった噂をご存じでしょうか? あたくし、そのお相手の発表を楽しみにしていますの」
「アデル様はお年頃の淑女らしく可愛らしいですな」
先代当主はアデルがはしゃいでいるのを好意的に受け止めるが、ルフェーヌはいつものように黙って聞いているが心が落ち着かない。
アデルはディエゴと親しい関係を強調するようにねつ造しながら自信満々に話している。ルフェーヌの表情が暗くなっていく。
「あたくしが王太子妃になる事をご報告できたら嬉しい限りですわ」
アデルがティーカップを持つと、はじけるようにティーカップが割れる。ティーカップは粉々になり、入っていた紅茶が辺りに飛び散る。
「……っ!? なんで、ティーカップが割れるの?」
アデルは持っていたティーカップの取っ手を反射的に手を離してテーブルの上に落とす。
ルフェーヌは驚いて見ている事しかできない。
ティーカップに残されていた紅茶は半分以下で少し冷めていたため、アデルは火傷をせずに済んだ。
「アデル様、お怪我はーー」
先代当主はメイドを呼び、タオルを持ってこさせる。
「いえ、ご心配なさらないでください。こちらこそ、大切なティーカップを割ってしまい、申し訳ございませんわ」
アデルはなぜティーカップが割れたのか不明だが、先代当主へ謝罪する。
「あっ……!」
アデルは頭を押さえ、目をきつく閉じる。
「どうされましたかな?」
先代当主が再び声をかける。アデルはいつも社交場で見せる優美な表情ではなく、辛そうな表情をしている。
「いえ、何でもありません。うっ……!」
アデルは苦しそうに声をもらし、痛みに耐えるように呼吸が荒い。
「申し訳ございません。妖精たちが頭の中でケンカをしているようですわ」
アデルは先代当主の指示でタオルを持ってきたメイドに案内され、邸宅内のゲストルームで休むことになった。
ルフェーヌはそのまま残り、先代当主の話し相手になり彫刻の話を聞いていた。その後は王女のルフェーヌへ挨拶に来た夫人と一言交わし、庭園や邸宅内に飾られている彫刻を見て回った。
今日はルフェーヌたちの父ジスランが懇意にしている侯爵家の先代当主の長寿パーティーが開かれる。ルフェーヌとアデルも幼少期から世話になっており、パーティーに招待された。
ジスランは予定があるとの事で、先にルフェーヌとアデルがパーティー会場となっている侯爵家に風力車で向かっている。
移動中、アデルはいつものように風力車の中でルフェーヌへ一方的に話をしている。
「お姉様、あたくしよね? そうよね、絶対そうと言って!」
アデルははしゃいでいる。侯爵家のパーティーに浮かれているのではない。
数日前、パイロープ国の王太子であるディエゴが婚約者を決めたと風の噂が流れてきた。誰とはまだ分からないが、心当たりのある各国の王女やパイロープ国の令嬢たちは自分ではないかとはしゃいでいる。アデルもその一人だ。ルフェーヌはいつものように表情を暗くしている。
「つれない態度でしたけど、あたくしの事を想っていてくれたのよね」
ルフェーヌは視線を窓の外へ移す。春の美しい草原から気持ちの良い風が入ってくる。
今日もルフェーヌはアデルとは違い、落ち着いた色のドレスに後ろで髪をまとめてシニヨンヘアにしている。
ルフェーヌは窓の外を眺め、春風で前髪を揺らしながらディエゴの婚約者の事を考えている。
(ディエゴ様に婚約者ーー。どのような方かしら)
ルフェーヌはディエゴの横に立っている女性を想像する。
温和で優しそうな女性。元気で活発な明るい女性。つかみ所がない妖艶な女性。
ルフェーヌは全くイメージが着かずに想像をやめる。ディエゴがどのような女性が好みかも知らない。
ルフェーヌは一ヶ月前の事を思い出す。ディエゴが言っていた噂を聞かせてやるとはこの事だったのだろうか。
ルフェーヌはディエゴの意図が分からず、腑に落ちない噂を無意識に考えてしまっている。
しばらくすると広大の敷地に建つ、侯爵家の立派な邸宅が見えてきた。風力車を降りるとルフェーヌとアデルは使用人に庭園へ案内される。
庭園にはゲストが多数集まっており、パーティーが始まっている。
パーティーは手入れが行き届いた青々とする芝生の美しい庭園で行われている。庭園には多くの彫刻が配置されており、先代当主が好んで集めたものだ。
ルフェーヌとアデルは庭園に用意されたテーブルセットでお茶を飲みながら先代当主と談笑をする。
先代当主は長寿になっても快活で行動的な人で、長寿祝いに各国を旅行した事を二人に話している。
炎の国であるパイロープ国にも訪れたようで、パイロープ国の美術館を見学したのが印象的だと言っている。その筋の著名人がのこした炎の精霊像のレプリカを譲ってもらったという。
「彫刻の造形美に目がなくてですね、なかでも精霊像を気に入って彫刻を眺めては一日を終える事もあるのですよ」
精霊像のレプリカは庭園の二カ所に置かれている。一つは風の精霊、二つ目は炎の精霊の彫刻だ。
精霊像は美しい女性の姿をしており、先代当主は幻想的な美しさを気に入っているようだ。
「そうなのですね。あたくし、先日のエフハリスト式典でディエゴ王太子殿下へご挨拶をしましたの。とても素敵な方でしたわ」
ルフェーヌはアデルへ黙って視線を動かす。アデルは式典の帰り、風力車の中でディエゴの悪口を言っていたのを忘れたのだろうか。
「そうですか。若い方同士、交流を持たれるのは良い事ですな」
先代当主はニコニコと楽しそうにアデルの話を聞いている。
「ディエゴ王太子殿下が婚約者をお決めになった噂をご存じでしょうか? あたくし、そのお相手の発表を楽しみにしていますの」
「アデル様はお年頃の淑女らしく可愛らしいですな」
先代当主はアデルがはしゃいでいるのを好意的に受け止めるが、ルフェーヌはいつものように黙って聞いているが心が落ち着かない。
アデルはディエゴと親しい関係を強調するようにねつ造しながら自信満々に話している。ルフェーヌの表情が暗くなっていく。
「あたくしが王太子妃になる事をご報告できたら嬉しい限りですわ」
アデルがティーカップを持つと、はじけるようにティーカップが割れる。ティーカップは粉々になり、入っていた紅茶が辺りに飛び散る。
「……っ!? なんで、ティーカップが割れるの?」
アデルは持っていたティーカップの取っ手を反射的に手を離してテーブルの上に落とす。
ルフェーヌは驚いて見ている事しかできない。
ティーカップに残されていた紅茶は半分以下で少し冷めていたため、アデルは火傷をせずに済んだ。
「アデル様、お怪我はーー」
先代当主はメイドを呼び、タオルを持ってこさせる。
「いえ、ご心配なさらないでください。こちらこそ、大切なティーカップを割ってしまい、申し訳ございませんわ」
アデルはなぜティーカップが割れたのか不明だが、先代当主へ謝罪する。
「あっ……!」
アデルは頭を押さえ、目をきつく閉じる。
「どうされましたかな?」
先代当主が再び声をかける。アデルはいつも社交場で見せる優美な表情ではなく、辛そうな表情をしている。
「いえ、何でもありません。うっ……!」
アデルは苦しそうに声をもらし、痛みに耐えるように呼吸が荒い。
「申し訳ございません。妖精たちが頭の中でケンカをしているようですわ」
アデルは先代当主の指示でタオルを持ってきたメイドに案内され、邸宅内のゲストルームで休むことになった。
ルフェーヌはそのまま残り、先代当主の話し相手になり彫刻の話を聞いていた。その後は王女のルフェーヌへ挨拶に来た夫人と一言交わし、庭園や邸宅内に飾られている彫刻を見て回った。