The previous night of the world revolution4~I.D.~

sideアイズレンシア

─────…ルルシーの部下、ルヴィアが嫁の携帯を手に、私の部屋に向かっていたその頃。

私とアリューシャは、執務室でそれぞれ難しい顔をして、それぞれ書類とにらめっこをしていた。

私は、部下から送られてきたルレイア及び幹部達の捜索の経過報告書を。

アリューシャは、小学校二年生用の計算ドリルを。

睨んでいるものの種類は全く違うものの、二人して頭を悩ませているところは、同じである。

…どの情報も、噂話レベルの推論でしかない。

部下達が一生懸命調べてくれているのは理解しているが、それでも…確定的な情報は、皆無と言って良いほどにない。

現時点での確定情報は、「何も分からないことが分かっている」。これだけだ。

皮肉なようだが、これが分かっているのと分かっていないのとでは、大きく違う。

そう、私達は今、何も分からない。確かな情報を得る手段がない。

これが分かっているだけでも儲けものだ。少なくとも、分かった気になって偽の情報を盲信しているよりは、ずっとマシ。

でも…だからって、分からないことが分かっていたって、事態が好転する訳ではない。

私が頭を悩ませていると、アリューシャもまた、鉛筆を片手に唸っていた。

「うー…。分からん…」

「アリューシャ。何処が分からないの?」

答えが何処かにあるはずなのに、その答えを得る手段がない。

私もアリューシャも、似たようなものだ。

「3×5だってよ。何これ」

「3が5個あるんだよ」

「3が5つもあんの?なんかすげーでっかい数字になりそう」

少なくとも、アリューシャの両手の指では数えられないもんね。

アリューシャも最近は段々賢くなってきているけど、答えが10を越える…つまり両手の指で数えられなくなる計算は、まだまだ難しいようだ。

この状況で計算ドリルに精を出すなんて、能天気な、と思われるかもしれないが。

私にとっては、むしろ癒しだ。

こういう、非日常の状況において…いかに日常のルーティーンを維持するかは、精神衛生上、非常に重要である。

つい思考の波に呑まれ、抜け出せなくなりそうになる度…アリューシャが、こうして私を現実に引き戻してくれるのだ。

アリューシャがいなかったら、私はとっくにノイローゼみたいになっていただろうな。
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