The previous night of the world revolution4~I.D.~

side華弦

──────…今でこそ、私の祖国箱庭帝国は開国され、憲兵局の支配からも解放されている。

しかし私が祖国にいた頃は、いつ死んでもおかしくなかった。

だから、私が選ばれて、奴隷として売られたのは…幸せなことだったのだ。

自分にそう言い聞かせながら、私は生きてきた。

両親は私が憎かった訳ではない。

ただ、私をあの国から逃がそうとしただけなのだ。

例え奴隷の身分でも…生きていられるのなら、と。

「…人買いに買われ、私は船に乗って、シェルドニア王国に連れてこられました…」

それ以来、今でもずっと、私はシェルドニア王国で生きている。

言わばこの国は、私の第二の祖国なのだ。

「…ルリシヤ・クロータス。博識なあなたならご存知でしょうが…シェルドニア王国には、昔から奴隷制度があります」

「…そうだな」

時代錯誤も甚だしい、忌まわしい慣習。

海の向こうのルティス帝国でも、大昔は奴隷制があったようだが…今では、とっくに廃れ、過去の因習になっている。

しかし、シェルドニア王国では。

未だに、奴隷制が根強く残っている。

表向き、制度自体は廃止されている。

国際世論から「人権侵害だ」と批判されたからである。

だから、シェルドニア王国には奴隷制はない。そういうことになってる。

白昼堂々奴隷市場なんて開こうものなら、あっという間に逮捕されてしまう。

でもあくまで、それは建前の話。

奴隷制度が廃止されてからも、既に奴隷として使われている人間が解放されることはなかったし。

その奴隷が子供を産めば、その子もまた、奴隷として扱われた。

白昼堂々奴隷市場を開けないなら、こっそり開けば良い。

政府も、暗黙の了解で認めていた。

シェルドニア王国にとって、奴隷制は悪ではないのだ。

そして奴隷達にとっても、この制度はあながち忌むべきものではなかった。

「このご時世に、奴隷制なんて…」

ルルシー・エンタルーシアは、嫌悪感に顔をしかめていた。

…詳しい事情を知らず、ただ「奴隷制」という言葉だけを聞けば、確かに残酷な因習だと思うことだろう。

だが、この国の奴隷達にとっては…決して、残酷な因習ではないのだ。

「意外に思われるかもしれませんが、この国の奴隷達は、その大半が、自分の身を不幸だなどとは思っていませんよ」

「…何?」

解放されたい、とも思っていないだろう。

私も…かつては、そうだった。
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