孤高の黒皇帝は、幼児化した愛しの聖女に気づかない ~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダもれです~
第四章 ちいさな聖女の大奮闘
こっ……これっていったいどういう状況⁉
目が覚めるや否や、私はパニックに陥った。
目の前には分厚い胸、背中には太い腕の間に挟まれて――いや、抱きしめられている。くつろげたシャツの襟もとから、たくましい胸筋が覗いていた。
おそるおそる顔を持ち上げると、まぶたを閉じた整った顔があった。
ど……どういうことおー!
叫びだしそうになるのをグッとこらえる。
しょ、初夜! 初夜だったの⁉
いや、でも何ひとつ覚えていない。なんなら陛下と〝そういう〟雰囲気になった記憶すらない。
もしかして私、陛下がいらっしゃったときには爆睡していたの⁉ 陛下はそんな私を……。
いいえ! 陛下はそんな非道なことをされる方ではないわ! きっと私が起きるのを待っているうちにご自身も眠ってしまわれただけ! そうに決まってる!
よかった……と意味のわからないまま安堵の息をつく。
ぐっすり眠っている陛下を起こすのが忍びなくて、でもこのまま彼の腕に抱きしめられているのも居たたまれなさすぎて、腕の中でそっと体を反転させた。
瞬間、目に入ったものに腹の底から悲鳴が込み上げる。すんでのところでそれをのみ込むことができたが、代わりに喉が「うぐぁっ」と変な音を立てた。
わわわわわわわ私だわっ!
ベッドの片端に、〝私〟があおむけの状態で寝ていた。胸の上で両手を重ね、まつげをピクリともさせず呼吸音もなく、ただ静かに横たわっている。一瞬人形かと疑ったが、体を覆う光の粒子に昨夜の出来事を思い出した。
そうだ、私、体と分離して小さくなったんだったわ……。
だけどじゃあどうして陛下と本体の自分と、仲良く並んで寝ているの⁉
確か私は、倒れている自分を部屋に残して、助けを求めようと陛下を探していたはずだけど……。