孤高の黒皇帝は、幼児化した愛しの聖女に気づかない ~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダもれです~
第五章 幼聖女は月夜に暗躍する

 陛下の部屋で過ごすようになってから五日が経った。相変わらず私は幼女の姿のままだ。

 なぜか毎晩陛下の腕の中で眠り、朝が来たら陛下を起こして身支度を整えてから朝食を取る。なぜだか毎回陛下に食べさせてもらっている。

 恥ずかしいのでいいかげんどうにかしたいけれど、今の自分には椅子が低すぎて難しい。陛下の私室でふたりきりというのが、せめてもの救いだ。
 皇后を狙う者がいるかもしれない中で、皇后をひとりきりにせず、できるだけ他者を近づけずに済むように、という陛下の配慮だった。

 そうして朝食が終わった後、私は自分に与えられたもうひとつの役目に取りかかる。〝皇后の世話〟だ。
 『世話』といっても、私がするのはオディリアの顔や手足などを濡れタオルで拭き清め、髪の毛をブラッシングするという簡単なもの。

 けれど、本体の状態をくまなくチェックできる絶好のチャンスだ。神聖力は弱まっていないか、どこか変わったところはないか。しっかりと観察するにはもってこいなのだ。

 さらに、陛下が寝室を出るため、実質ひとりきりとなった私にとっては、あれこれと思考に没頭することができるよい機会なのだ。

 ずっと元に戻るための方法を考え続けているけれど、なにも思い浮かばない。
 幸い本体を包む光は弱まってはいないけれど、今の私には神聖力が使えないので、細かいところまでは判別できない。いつまでこの状態で持つのかわからない。

 やっぱり教皇様に頼るしかないのよね……。
 じゃあどうやって連絡を? 手紙を出す? 

 教皇様宛の手紙は、毎日のように帝国中から送られてくる。教皇様は『全部に目を通す』とおっしゃっていたが、それでもやはり読んでもらうまで時間がかかるだろう。なんせ今の私はただの幼女だ。

 もちろんオディリアの名前で手紙を出せば最短で教皇の手元に届くだろうけれど、肝心のオディリアは眠った状態。手紙なんて書けるはずがない。ともすれば皇后の名前を語る者として捕らえられる可能性もある。

 やっぱりあの魔導鏡を借りるしかないわよね……。

 いったいどういう理由をつけたら、すんなり借りることができるだろうか。それがこのところ私の頭を悩ませている原因ひとつだった。

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