孤高の黒皇帝は、幼児化した愛しの聖女に気づかない ~白い結婚かと思いきや、陛下の愛がダダもれです~
第六章 大聖女の危機
「……れた……はやっ……ろう……」
遠くで誰かが話す声がする。それを聞いているうちに意識が浮上した。
そうだわ。私、あの男達に襲われて……。
全身のズキズキとした痛みに安堵する。生きている証拠だ。
恐る恐る目を開けてみたら、すぐ目の前にオディリアがいた。どうやらふたり並べて転がされているらしい。私が生きているということは、オディリアも無事だということだ。
後ろ手に縛られて固い床に横になったまま、視線だけをきょろきょろと動かしてみる。あたりは薄暗く、燭台の火だけが部屋を照らしている。
床に敷かれた絨毯のかび臭さと埃っぽさに、くしゃみが出そうになるのをこらえる。カーテンの裾が破れてボロボロになっているのも見え、どこかの廃墟に連れて来られたと気づいた。
「俺たちはいつまでここにいればいいんだ」
「そうだ! 言われたことをやったのだからさっさと残りの金をくれ」
本体が壁になっていて見えないけれど、男達の声はあのときのやつらのものだとすぐにわかる。男達の目的がなんなのかはわからないし、まだまだ危機的状況が続いていることに冷や汗がにじむ。
「まだよ」
聞こえた声に、心臓がドクンと音を立てた。
うそ。この声……まさか……。
「完全に目的を果たすまであと少し。全部が済んでからじゃないと報酬は渡せないわ」
「約束はきちんと守ってくれるんだろうな、エルマ」
「もちろんよ」
エルマ!
この三か月間、毎日そばで聞いてきた声を間違えるはずがない。
エルマが犯人なの……? どうして……。
信じられない気持ちでいっぱいで、名前が同じだけの別人かもしれないと思いたい。