恋ひわずらふ帝~御簾の奥、ただ君を想う~

第2章 ただ一人の男として

帝への恋心を抱いたまま、私は日々の務めに励んでいた。

きっと、そうしていれば、この想いもいつか薄れていく——そう信じたかった。

けれども、務めの合間、ふと胸の内が溢れそうになるたび、私は小さな冊子を取り出し、筆を執った。

「今日もあの人のお姿を見た。」

ただそれだけの一文なのに、墨が滲みそうなほど、胸は痛く、苦しい。

——どうして、こんなにもお慕いしてしまうのだろう。

「いっそ、あの方のいない世界に行ってしまおうか。」

自らの手で記したその言葉に、自分で驚き、慌てて筆先を止める。

恋とは、かくも人を狂わせるものなのか。

涙がとめどなく頬を伝う。

——会いたい。あの方に会って、この胸の内を伝えたい。

抑え込んできたはずの思いが堰を切ったようにあふれ出し、私は嗚咽をこらえることもできずにいた。
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