帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜

第5章 更衣 ― 唯一の女

そして私は、神社に戻り、再び人々に癒しの力を与える日々を送っていた。

病の子を抱く母、戦で傷ついた兵、遠くから噂を聞きつけて訪れる者――。

かつてのように祈り、手をかざすたび、皆の顔が安堵に和らぐ。

けれど、日を追うごとに力は細くなり、祈りの後には深い疲労が残るようになっていた。

気づけば、神社に戻ってから五年の歳月が流れていた。

その間も、暁宮様からは手紙が届いていた。

「必ず迎えに行く」「変わらず想っている」――墨跡から伝わる温もりに、胸が締めつけられた。

だが、やがて手紙の間隔は開き、文面も簡素なものになっていく。

私も、返す言葉を見つけられなくなっていた。

「美琴。」

ある日、神主が私の前に節太郎を伴って現れた。

「節太郎だ。既にこの神社の事を任せている。」
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