黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー
十一日目 交誓の儀・二日目 ― 神官たちの動揺と、雪蘭への問い
翌朝。
神殿には昨日の出来事の余韻が色濃く残っていた。
雪蘭が姿を見せると、
神官たちの視線が一斉に集まる。
彼らの顔には期待と不安と混乱が複雑に混じり合っている。
最高位の巫女・蓮音も霊鏡を胸に抱えたまま、
心なしか緊張を走らせていた。
「雪蘭様……体調は、もうよろしいのでしょうか?」
「昨日の神気は、どのように感じられたのですか?」
「霊鏡から何か神託は……?」
「幻獣の声は、耳に届きませんでしたか……?」
神官達から立て続けに質問が飛ぶ。
雪蘭は少し困ったように首を横に振った。
「いいえ……特に何かを聞いたわけでも、神託があったわけでも……」
その言葉と同時に、
神官たちの肩がふっと落ちた。
「ああ……そうですか……」
「昨夜の異変ゆえ、つい……期待してしまいました。」
彼らは一様に落胆の色が隠せない。
幻獣が最後に姿を現したのは60年も前のことだ。
当時の神官たちはもう既にこの世を去り、
45年前の火災で貴重な書物の多くが焼け落ちたため、
幻獣が現れた時どうなるかということが
実は誰も分かっていなかったのだ。
ただ分かっているのは、
今回の神事が明らかにいつもと違うことだけ。
(……ごめんなさい。
役に立てるようなことが何も言えず……)
雪蘭は胸がひりついた。
そんな雪蘭を見兼ねて、凌暁が一歩前に出る。
「昨夜の件は、雪蘭の責ではない。これ以上執拗に問うのはやめていただこう。」
その低く静かな声に、
神官たちは慌てて頭を下げた。
自分を庇ってくれる凌暁の姿に
雪蘭の胸が温かくなる。
(凌暁様……)
しかしこの時の雪蘭はまだ知らない。
あの時、実は“何もなかった”のではなく、
すでに神の霊力が宿り始めていたことを。
神殿には昨日の出来事の余韻が色濃く残っていた。
雪蘭が姿を見せると、
神官たちの視線が一斉に集まる。
彼らの顔には期待と不安と混乱が複雑に混じり合っている。
最高位の巫女・蓮音も霊鏡を胸に抱えたまま、
心なしか緊張を走らせていた。
「雪蘭様……体調は、もうよろしいのでしょうか?」
「昨日の神気は、どのように感じられたのですか?」
「霊鏡から何か神託は……?」
「幻獣の声は、耳に届きませんでしたか……?」
神官達から立て続けに質問が飛ぶ。
雪蘭は少し困ったように首を横に振った。
「いいえ……特に何かを聞いたわけでも、神託があったわけでも……」
その言葉と同時に、
神官たちの肩がふっと落ちた。
「ああ……そうですか……」
「昨夜の異変ゆえ、つい……期待してしまいました。」
彼らは一様に落胆の色が隠せない。
幻獣が最後に姿を現したのは60年も前のことだ。
当時の神官たちはもう既にこの世を去り、
45年前の火災で貴重な書物の多くが焼け落ちたため、
幻獣が現れた時どうなるかということが
実は誰も分かっていなかったのだ。
ただ分かっているのは、
今回の神事が明らかにいつもと違うことだけ。
(……ごめんなさい。
役に立てるようなことが何も言えず……)
雪蘭は胸がひりついた。
そんな雪蘭を見兼ねて、凌暁が一歩前に出る。
「昨夜の件は、雪蘭の責ではない。これ以上執拗に問うのはやめていただこう。」
その低く静かな声に、
神官たちは慌てて頭を下げた。
自分を庇ってくれる凌暁の姿に
雪蘭の胸が温かくなる。
(凌暁様……)
しかしこの時の雪蘭はまだ知らない。
あの時、実は“何もなかった”のではなく、
すでに神の霊力が宿り始めていたことを。