黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー
十二日目 麒麟の神事「越境の儀」
夜明け前の薄明が寝殿の障子を淡く照らし出す。
静かな気配の中で、
凌暁はゆっくりと目を開いた。
すぐそばで、雪蘭が小さく寝息を立てている。
昨夜から寄り添ったまま、
彼の腕の中で眠っていた。
その穏やかな寝顔に、
凌暁はそっと息を吐こうとした――が。
次の瞬間、彼の全身が強張った。
雪蘭の身体が、うっすらと光を帯びながら――
輪郭が透けている。
「……雪蘭?」
声が震えた。
瞬きしても幻ではない。
胸の奥に冷たいものが落ちていく。
「雪蘭ッ!!」
抱き寄せていた腕でその肩を掴み、
揺さぶるように叫ぶ。
雪蘭はびくりと身体を震わせ、
はっと目を開いた。
「凌暁様……? どう、したのですか――」
言いかけて、自分の手を見下ろす。
光っている。
透けている。
自分の肌が、自分の腕が
――存在が空気にとけてゆくようだった。
「え……? えっ……!」
恐怖が一瞬で雪蘭を飲み込み、
凌暁にすがろうと手を伸ばした。
しかし。
その手は、凌暁の胸を捉えることなく――すり抜けた。
「……っ!」
雪蘭の顔から血の気が引く。
凌暁もまた心臓を掴まれたような感覚に襲われた。
「凌暁様……!! 私、どうなってしまうのでしょう……っ!」
声が震え、涙が縁に溜まる。
凌暁は彼女の両肩をしっかりと抱えようとしたが、
そこにもほのかな抵抗しかなく、
指先が霧を掴むようだった。
「大丈夫だ、雪蘭。必ず――必ず何とかする!」
それは強がりではない。
彼自身も恐ろしかったが、
それ以上に、
この世界から雪蘭が消えてしまうかのような可能性が、
耐え難かったのだ。
静かな気配の中で、
凌暁はゆっくりと目を開いた。
すぐそばで、雪蘭が小さく寝息を立てている。
昨夜から寄り添ったまま、
彼の腕の中で眠っていた。
その穏やかな寝顔に、
凌暁はそっと息を吐こうとした――が。
次の瞬間、彼の全身が強張った。
雪蘭の身体が、うっすらと光を帯びながら――
輪郭が透けている。
「……雪蘭?」
声が震えた。
瞬きしても幻ではない。
胸の奥に冷たいものが落ちていく。
「雪蘭ッ!!」
抱き寄せていた腕でその肩を掴み、
揺さぶるように叫ぶ。
雪蘭はびくりと身体を震わせ、
はっと目を開いた。
「凌暁様……? どう、したのですか――」
言いかけて、自分の手を見下ろす。
光っている。
透けている。
自分の肌が、自分の腕が
――存在が空気にとけてゆくようだった。
「え……? えっ……!」
恐怖が一瞬で雪蘭を飲み込み、
凌暁にすがろうと手を伸ばした。
しかし。
その手は、凌暁の胸を捉えることなく――すり抜けた。
「……っ!」
雪蘭の顔から血の気が引く。
凌暁もまた心臓を掴まれたような感覚に襲われた。
「凌暁様……!! 私、どうなってしまうのでしょう……っ!」
声が震え、涙が縁に溜まる。
凌暁は彼女の両肩をしっかりと抱えようとしたが、
そこにもほのかな抵抗しかなく、
指先が霧を掴むようだった。
「大丈夫だ、雪蘭。必ず――必ず何とかする!」
それは強がりではない。
彼自身も恐ろしかったが、
それ以上に、
この世界から雪蘭が消えてしまうかのような可能性が、
耐え難かったのだ。