黎明の麒麟ー凌暁と雪蘭の伝説ー

十四日目・最終日 ― 天啓を去る朝の別れと、陰謀の火種

最終日の朝。
霜の粒が陽光を受け、
白い光を撒き散らしながら静かに溶けていく。
昨夜は二人とも疲労困憊で、
寝殿に着くなりすぐに眠ってしまった。
けれど長かった滞在の日々も、
今日で終わりだ。

天啓の神殿はまだ薄暗い。
神殿の中庭で五幻獣が司る方角に向けて
順々に拝礼し、
感謝と別れの挨拶をする。

いよいよ天啓を後にし、
霜華国へと帰還するのだ。
雪蘭と凌暁は、
全てをやり遂げた安堵から
温かい笑みを浮かべて歩いていた。

その先で、蓮音が待っていた。
神官服はいつも通り清潔で、
白い衣の裾が朝風に揺れている。
だがその目は、
いつもより少し赤いように見えた。

「雪蘭様。お帰りになる前に、お渡ししたいものがございます」
蓮音は両手で丁寧に包まれた小さな護符を差し出す。
淡い金糸で麒麟の紋が刺繍され、
見た目には神聖そのものだ。

雪蘭は驚いたように瞬きをした。
「これは……?」

蓮音は深く頭を垂れた。
「雪蘭様の霊力は、今もなお急激に高まり続けています。光脈を歩まれた時のような現象が、いつ再び起こるか…神官である私が申し上げるのは恐れ多いのですが、とても心配なのです。」
声は震えている。
心配からか、嫉妬からか
――雪蘭には分からない。
「これは“霊力を安定させる護符”でございます。身につけていただければ、雪蘭様のお体への負担を少しでも軽減できるかと」

雪蘭は感激して微笑んだ。
「蓮音様……お気遣い、ありがとうございます。
私のことをそんなに……」

“信じてくださるのですね”
その言葉を付け足すように、
雪蘭は護符を胸に抱いた。
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