この空のした。〜君たちは確かに生きていた〜

嫁ぐ日まで





 そのあとは散々だった。

 足の傷は以外と深かったらしく、結局お医者さまのお世話になるはめになった。

 まつの言ったとおり、傷口を縫うことになったのだけれど、これがものすごく痛くて、母さまにしがみついて ようやく堪えるありさまだった。


 不思議だったのは、兄さまが真っ先に飛んで来なかったこと。


 いつもなら、また勝手に外に出た私を叱るなりなんなりするはずの兄さまが、遠く部屋の外から私の様子をうかがうくらいでしか、そのお姿を見せなかった。


 もっとも、痛みと熱に浮かされ朦朧としていて、あまり覚えてはいないのだけど。





 ―――その晩、私は高熱を出した。

 傷口が化膿したらしく、足の熱が全身にまわった。

 自室で痛みと熱にうなされながら、ぼんやりと利勝さまのことを想う。



 ……今日一日で、いろんな利勝さまを知った気がする……。



 他人の目を気にせず、私を助けてくれた勇気。

 見かけからは想像できなかった、強い力。

 温かい手。

 兄さまと同じ、木刀を振ってできる胼胝(タコ)でごつごつしていた。

 泣いてばかりの私を、励ましてくれた。


 そして『利勝さま』と呼ぶことを許して下さった……。



 今日一日で、宝物がたくさんできた。



 いただいた紺色の手拭い。

 一緒に見た夕焼け。

 ……そして、心に芽吹いた ほのかな恋。



 (……もっとほしいな)



 今度は利勝さまの笑ったお顔が見たい。

 思いっきりの笑顔を。

 そしてその笑顔を、私に向けてほしい。


 いつか叶うかしら?

 叶うとしたら、それだけで幸せだわ……。


 利勝さまの笑ったお顔を、思い描いてみる。
 けれど、笑顔の利勝さまはやっぱり想像できなくて。


 私は熱に浮かされながらも苦笑してしまった。

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